【社説】辺野古移設地 地域の平和と安定に不可欠
松野博一官房長官が沖縄県庁で玉城デニー知事と会談した。玉城氏は、米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)を名護市辺野古へ移設する政府方針は「危険性の除去につながらない」と主張し、直ちに中止するよう要求。松野氏は現行計画の実施が「唯一の解決策」と反論し、平行線をたどった。在日米軍の抑止力を維持しつつ普天間の危険性を除去するには、辺野古移設を進める以外にない。
官房長官が沖縄入り
官房長官就任後、沖縄基地負担軽減担当相を兼ねる松野氏の沖縄入りは初めてで、玉城氏とは初顔合わせとなった。松野氏は「着実に工事を進めていくことこそが普天間の一日も早い全面返還を実現し、危険性除去につながる」と強調した。
普天間は住宅密集地に立地しているため「世界一危険な米軍基地」と言われる。04年8月には、普天間のすぐ南側にある沖縄国際大構内に米軍ヘリコプターが墜落する事故が発生した。住民を巻き込むような大事故が起きれば、日米安保体制に重大な打撃を与えることにもなりかねない。
玉城氏は2018年9月、翁長雄志前知事の死去を受けた県知事選で、辺野古移設阻止を公約に掲げて当選した。それから3年が経過したが、保守、革新両勢力が結集した支持基盤の「オール沖縄」から離脱者が相次ぐなど、求心力低下が顕著だ。計画撤回を政府に迫ったものの、工事中止を狙った訴訟も相次いで敗訴している。
一方で今回の衆院選では、名護市を含む沖縄3区で、自民党候補が辺野古移設反対を掲げる立憲民主党の候補を破って12年以来の勝利を果たした。岸田文雄首相は10月の所信表明演説で、移設計画を堅持する方針を表明している。
日米両政府が1996年4月、普天間返還で合意してから25年が過ぎた。だが合意後も、09年9月に発足した民主党の鳩山由紀夫政権が「最低でも県外移設」を掲げるなど、普天間問題は迷走を繰り返してきた。
辺野古海域で確認された軟弱地盤の存在で、総工費は膨張する見込みで、普天間の返還時期は2030年代以降とみられている。現時点で早急に普天間を返還することは難しいとしても、移設を進めていくには県の協力が欠かせない。玉城氏は移設を容認すべきだ。
沖縄の基地負担が軽くないことは確かである。ただ、それは沖縄が朝鮮半島や中国をにらむ戦略的要衝であるためだ。特に現在、台湾統一を目指す中国の軍事力強化などで台湾海峡の緊張が高まっている。
日本や地域の平和と安定のため、在沖米軍の抑止力を維持することは死活的に重要である。政府は辺野古移設の重要性を丁寧に説明し、県民の理解を得ていく必要がある。
普天間以外の負担軽減も
松野氏は宜野湾市で車座対話に臨み、住民から「夜間飛行が多く、寝付いた子供も飛び起きる轟音だ」などの苦情を受けた。
政府は辺野古移設に向けた工事を着実に進めるとともに、米軍の抑止力を損なわない範囲で普天間返還以外の負担軽減策も推進すべきだ。