特定離島指定し自衛隊施設をー元海保現場トップ


どう守る尖閣 元海保現場トップに聞く(下)

(公社)東京湾海難防止協会理事長 向田昌幸氏

(公社)東京湾海難防止協会理事長 向田昌幸氏

> むかいだ・まさゆき1952年、広島県生まれ。海上保安大学校卒業。巡視船勤務を振り出しに管区海上保安本部本部長、本庁警備救難部長などを歴任し、警備救難監を最後に退官。(公社)日本水難救済会理事長を経て、現職。

向田さんの近著『尖閣問題の現状と展望』(IMOS刊)では、かつての米国ニクソン大統領が初めて打ち出した尖閣領有権に関する「中立・不関与方針」の撤回を米国に求めることを提案しているが、実現の可能性は。

 米国も中国と事を荒立てたくはないはずだし、むしろ対日政策の観点からは現状維持の方が望ましいと考えているのかもしれないので、日本側の要求を米国がすんなりと受け入れるとは思っていない。しかし、日本政府の基本的立場からすれば、米政府の方針がどうあれ、尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本固有の領土であるし、その米政府の方針がここまで中国を増長させてきた元凶の一つになっている以上、その撤回を要求するのは当然のことではないか。

 ただ、米国に「中立・不関与方針」の撤回を求めるにしても、当然米側から日本が自国の領土を自らの手で主体性を持って守る覚悟が求められるだろう。その覚悟ができてこそ、日米の連携あるいは日米台の連携も対中抑止力として初めて有効に機能するのであって、その覚悟がないまま、米国が日米安全保障条約第5条の適用対象地域に尖閣諸島が含まれると確認さえしてくれれば、尖閣防衛のために米国が日本を無条件に支援してくれると思い込むのは、虫の良い妄信にすぎない。

 要するに、中国の野望をくじき事態の打開または問題の解決を図るために今の日本に求められているのは、尖閣諸島を本気で守り抜く覚悟のないまま力による対抗策を模索するのではなく、まさに日本の政治力と外交力であり、米国や中国の軍事的・経済的な圧力に振り回されることなく、是々非々で向き合っていくことではないか。

政府対応だけで事は済むのか。

 国民も、尖閣問題を別世界のことのように傍観しているだけでは無責任だ。拙著の執筆を決意したのも、尖閣問題の本質とこれまでの経緯をできるだけ正しく理解して現実を直視し、尖閣問題を自らの問題として政治と外交の後押しを期待しているからだ。

 そして、日本がナショナリズムに流されて中国に実力で対抗する方向に向かってほしくないからこそ、七つの「すぐに実行可能と思われる対策」と六つの「喫緊の検討課題」を提案したのである。

特に何が重要と考えるか。

 一つは、拙著の中で「喫緊の検討課題」の一つに掲げた、尖閣諸島を「特定離島」に指定して同諸島の有効支配体制を充実強化する案に関し、これまで中国は自らは事あるごとに尖閣諸島の領有権棚上げに関する約束を口にしながら、その一方では日本に対する背信行為を続けてきた。

 そんな中国に対し、わが国として最早(もはや)これ以上遠慮などする必要はないはずだ。そろそろ尖閣諸島を「特定離島」に指定した上で、例えば、魚釣島に日米共同で管理運用する施設または自衛隊の常駐施設を設置することなどについて、前向きに検討しても良いのではないか。

 もう一つは、海上保安庁には“純粋な”海上警察機関だからこそ、日米豪印のクアッドや東アジアサミットのような政治的・軍事的な対中牽制(けんせい)のアプローチとは一線を画し、これまで通り諸外国の海上法執行能力の充実強化に向けた国際協力・貢献を継続していくと同時に、例えば、海保が最近大きな存在感を示し、かつ高い評価を受けている諸外国の海上保安または海上警察機関が参加するさまざまな国際会議の機会を利用して、海上法執行活動における国際海洋法秩序の遵守(じゅんしゅ)、「警察比例の原則」と「軍警分離の原則」の徹底、国家主権または管轄権への不介入などを規定した行動規範の策定を呼び掛けていくことを併せて提案しておきたい。

(聞き手=編集委員・池永達夫、政治部・川瀬裕也)

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