「表現の不自由展」の不都合な真実 名古屋市長 河村たかし氏

 「表現の不自由展」の展示をめぐり申請段階から問題があったことはあまり報じられていない。河村たかし名古屋市長に真相を聞いた。併せて減税によって福祉を充実させた同市の取り組みも紹介する。(聞き手=デジタルメディア編集長・岩崎 哲)

申請時 隠されていた昭和天皇動画

国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」での「表現の不自由展」について、行政が支援する場での表現の自由はどこまで許されると考えるか。

河村たかし氏

 かわむら・たかし 1948年名古屋市生まれ。一橋大学商学部卒。93年、衆院愛知1区で初当選・以来当選5回。2009年4月、名古屋市長選で当選。11年1月に市長を辞任し、同年2月に再選。現在3期目。

 表現の自由について慰安婦像ばかりが挙げられるが、それよりもまずマスコミが紹介しないものでより大きな問題がある。昭和天皇の肖像画がバーナーで燃やされ足で踏みつけられるという動画だ。マッチでなくバーナーで燃やすという暴力的なものだ。表現の自由をいう時、まずこの動画があることをマスコミは知っていたかどうかだ。

 マスコミは「社会の自由に対する脅迫だ」などと批判した。しかし、ジャーナリズムで大事なことは事実だ。事実をまず聞かなければならない。陛下を侮辱する動画があることを知っていたかと聞かなくてはならない。

 二つ目はそれが隠されていたということ。芸術祭が8月1日にオープンしたが、7月22日に名古屋市に提示された資料の中には陛下の動画は入っていなかった。

 三つ目は公共施設で市と県の主催事業として行われた展示だということだ。作家には「こういう表現をするな」とは一回も言ったことはない。ただ主催事業では当然ながら出展物を審査する義務がある。それを検閲だというのは当たらない。

 四つ目はマスコミが本当のことを伝えないことだ。陛下の動画があったこと、それが隠されていたこと。公共事業だということを書かないことが問題だ。

公的補助をしたことになるが、事前に申告されていない場合、虚偽申請などに問えるのでは。

 それは詐欺になる可能性が強い。申請時に陛下のものはなかった。隠されていたため分からなかった。私が知ったのは2日後見に行った時だ。びっくりした。これを隠しておいて、指摘すれば、表現の自由違反だ、政治家の暴力だと言うが、それは違う。

 大村秀章愛知県知事が展示すると言って主催者の一方である名古屋市には聞かず、独断で決めてしまった。それはおかしい。天皇制についてはさまざまな考えはあると思うが、「天皇」は憲法1条に規定され、ほとんどの国民が一定の敬意を払っている。これらの人たちが不快に感じるとすれば、彼らの「表現の自由」はどうなるのかだ。

県の施設で行う行事の規定は。

 もちろんある。「不快な思いをさせないこと」などだ。公園など市の施設はなるべく市民に使ってもらうことは原則的には良いとしている。だが「人々に不快な思いを与えるもの」であってはならない。

 また問題なのは、市が主催するものだと市民が天皇陛下を侮辱し、国が反対する慰安婦像を市のど真ん中に公金で展示することを市民が応援することになってしまう。だからこの展示を問題視し指摘したことについて、名古屋の人たちから「河村さん言ってくれて良かった」と支持する声も多い。

給料カットで減税生み出す
教師増員し子供の人生応援

市長給料を大幅に減らしたり、職員給料カットも続けて、減税を実施していることで知られているが。

河村たかし氏2

 誰も評価してくれないが、減税で毎年100億円、私が市長になって10年だから1000億円の現金が生み出されている。経費ゼロだ。名古屋は100万世帯あるので1世帯当たりにすると1万円、10年間で10万円減税した。継続して市民税減税を実施しているのは、日本中で名古屋だけだ。

 1000億円減税したら1000億税収が増えた。普通減税したら税収は減るものだ。確かに1~2年は減ったが、減税で可処分所得が増え消費が拡大されたため、2~3年で減税分が戻り、あとは増えるばかり。旧五大都市で比較すれば税収の伸びは大阪を抜いて日本一になった。

 可処分所得の多さ、子供に対するサービスや応援は断トツのトップだ。減税すると福祉が良くなる。それを証明したただ一つの都市が名古屋市だ。

 なぜ他の市ができないかというと、減税には総務大臣の許可がいる。許可を得るには起債でやらないこと。ではどうしたか。私は日本一給料の安い市長だ。それまで市長は年収2800万円だったが800万円でやっている。2000万円減らした。4年ごとに4220万円の退職金をもらえるが、それもゼロにした。10年間で約3億円を市民に返していることになる。

 公務員の給料を1割減らしたのは大きい。名古屋市は私が市長になった時、ラスパイレス指数が東京および政令指定都市の中で最も高かった。今は全国で12位だ。市長就任当時、2万6000人いる職員の給料を一律に減らしていって、現在の平均年収は630万円になっている。公務員が少し辛抱すると毎年180億円の真水として出てくる。そのうちの100億円が減税にということだ。

 公務員には嫌われているが、その分市民にとっては良いことだ。可処分所得が増えてGRP(域内総生産)の伸びが良いので税収も良くなった。名古屋は日本一税金が安くて日本一の福祉を届けている都市だ。

名古屋の魅力発信、名古屋ブランドの確立について。

 名古屋城の天守閣もいよいよ、石垣部会(名古屋城の石垣保全を議論する市の有識者会議)と話し合って方向が完全に一致した。名古屋城は旧国宝1号だ。図面が残っており詳細な実測値が分かる。寸分たがわず復元ができる。これだけの木造建築は世界にただ一つだ。50年か100年たてばもう一度国宝になるのではないか。

 天守閣の木造復元の設計・施工はコンペを経て竹中工務店が行うことになった。竹中の創業者竹中藤兵衛が400年前に名古屋城の建築に関わっていた。プレゼンの時の情熱が全然違った。名古屋城は世界の宝になる。完成までに何年必要なのか現時点においては、明確に示すことはできないが、できる限り早期に実現したいと考えている。まずは、石垣や内堀の調査が今年度中にできると良い。

リニア新幹線の建設が進んでいる。

 こんなにありがたいものを造ってもらい身に余る光栄だ。完成すると(東京から名古屋まで)7000万都市圏になる。40分で品川、20分で大阪に行ける。問題は7000万人の客が来られるようなものを名古屋に造らなくてはならない。

 千年都市と言われている。徳川御三家筆頭で、戦前はすごく良かったらしい。以前の“どえりゃー面白い”都市に、無味乾燥な言葉で言うと文化芸術の都市として充実させたい。名古屋城も掛け替えのない一歩だ。世界的コンサートができる施設を造りたい。

子供の施策に力を入れているようだが。

 名古屋は日本一子供を応援する町、一人の子も死なせない町だ。大変困難だが、米国型を導入している。米国には教師といえば2種類あり、教科を教える先生と、人生を応援する先生が常勤でいる。体が不自由だがこういう道があるぞとか、親からDVを受けていてもこういう道があるよと応援する。これを構えているのは名古屋市だけ。現在は教師全体1万人のうち150人だ。これを1000人まで広げたい。応援してきた子供が1万5000人を超えた。子供の悩みはすごい。日本はひた隠しにしているが、国連から4回も勧告を受けている。あまりにも競争が厳しくて負担が大きいと。

 米国のケンタッキー州ルイビルで10年間スクールカウンセラーをした高原晋一氏によると、日本と米国は根本が違う。子供には何が好きなのか聞いて、好きなことを大人が応援してやらしてあげる。それが米国の神髄だと。米国では子供を「カスタマー」お客さんと言い、先生はティーチャーではなく「アドバイザー」。そういう感覚だ。根本を変え先生も変わらないと子供の悲劇はなくならない。