中国の内モンゴル同化、加速か 漢語授業早まる

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 昨年9月から学校教育を中国語(漢語)中心に切り替える政策が取られている中国・内モンゴル自治区で、段階的に行われるはずだった同政策が予定よりも早く進められていることが、複数の情報筋から明らかになった。日本で抗議活動を行う内モンゴル出身者らに対しては、故郷の家族や親戚に中国当局から圧力がかかっていることも分かった。同化政策を強引に推し進める中国政府の手法に、在日モンゴル人らは不安を募らせている。
(辻本奈緒子)

母語であるモンゴル語への想いを訴えたモンゴル文字を掲げる子供(モンゴル人コミュニティーのフェイスブックより)

母語であるモンゴル語への想いを訴えたモンゴル文字を掲げる子供(モンゴル人コミュニティーのフェイスブックより)

 昨年8月に見つかっていた中国当局の公文書とされる書面では、中国語で行う授業を9月の秋学期から小学1年生と中学1年生を対象に国語(中国語)、2021年から同じく小1、中1に道徳と政治、22年には中1の歴史で導入し、25年からは大学受験を中国語で実施することを通知していた。

 しかし、南モンゴルクリルタイのオルホノド・ダイチン幹事長によると、少なくとも東南部の赤峰市(ウランハダ・ホタ)では、今年3月から中学2年生でも国語、政治、歴史の授業が中国語で行われているという。さらに自治区内のモンゴル人学校を閉鎖し中国人学校と統合する動きも出ており、それに抗議した知識人らが逮捕されたとの情報もある。

 政府系テレビではモンゴル語の番組は朝の1時間のみ、残りは中国や中国共産党の歴史を紹介する番組を流し、モンゴル国の情報や歌などの放送を禁じる共産党委宣伝部の指示とされる文面も出回っている。

 中国語での授業を予定よりも早めることに関する公文書は見つかっておらず、当局から各教育委員会や学校に直接通達したものとみられる。こうした状況について、南モンゴルクリルタイのチメド・ジャルガル副会長は「中国人は約束を守らない。香港で50年守られるはずだった一国二制度が20年で終焉(しゅうえん)したことを見ても明らかなように、最初から分かっていたことだ」と憤りを示す。

 一方、日本に暮らす内モンゴル出身者らは、現地の情報が得にくくなっていると口をそろえる。中国国内で主に利用されている連絡手段は中国版LINE「微信(ウィーチャット)」だが、2月21日に中国大使館周辺で国際母語デーに際して行われた抗議活動に参加した男性は「メッセージもどこまで監視されているか分からない」と不安を漏らす。

 昨年9月に都内で行われたモンゴル族らによるデモ行進には、内モンゴルとモンゴル国の出身者らが主催者発表で1000人近く参加した。しかし、それ以降に複数回行われたデモの参加者は100人前後にとどまっている。男性は「9月のデモ以降、若者が親にデモへの参加を止められたという話を聞いている」と本紙に明かした。

在日モンゴル人家族に圧力も

 来日して20年以上という内モンゴル出身の女性は、「ウィーチャット」で連絡を取る際は監視を避けるため、相手の既読が確認できれば、すぐにメッセージを消去するなどの工夫をしているという。この女性によると、2月に行われた抗議活動の前日に、日本在住のモンゴル人の実家(内モンゴル自治区)を中国当局の関係者が訪れ、「明日は日本で抗議活動が行われるようだが、参加するのか」と尋ねて圧力をかけたという。

 女性は「モンゴル語で授業をしていた教員たちの大量失業が心配だ。まずは去年9月に始まった政策を撤回し、モンゴル人が自分たちの言葉で話す権利を返してほしい。これからは内モンゴルとモンゴル国の協力が必要だ」と訴える。自身は都内でのデモや抗議活動に積極的に参加しているが、故郷の家族には一切話していない。「死ぬまで抗議を続ける。覚悟は決めた」。そう語ると、しっかりと前を見据えた。

 日本では、内モンゴル自治区における教育政策や抗議により弾圧を受けているモンゴル人らを支援し、モンゴルの言語や文化を守るための議員連盟が来週にも発足する予定だ。内モンゴル出身者らは、香港やチベット、ウイグルに続き、内モンゴルに関する議連の設立で、同化政策に対する批判の声が日本で広がることを期待している。