文化大革命の再現図る中国
拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ ギャルポ
チベットで洗脳教育復活
強制労働で伝統的生活を破壊
最近、皆様がお気付きのように中国政府は南モンゴル、いわゆるモンゴル自治区で学校教育でのモンゴル語の使用を廃止し、一層中国化の促進を強要している。これに対し日本でもモンゴル人を中心に大規模なデモが起きた。世界日報でも取り上げて下さったので詳細については割愛する。
軍事工場建設にも動員
チベットでも再び言語統制そしてかつての洗脳教育が復活している。日本の英字新聞はその詳細を2ページにわたって大きく報道したが、日本の主要新聞ではそのような記事は見当たらない。同記事によれば、2016年から20年6月までに50万人ほどのチベットの地方青年たちがウイグル並みの強制労働収容所および洗脳教育センターに入れられた、ということがアメリカの研究者などによって明らかにされた。
中国当局は、チベットの貧困をなくし、豊かにするためである、といつもの台詞(せりふ)で反論している。彼らの言うところによると、何十万人のチベット人が訓練所から卒業し、自発的にチベット居住区ならびに中国各地のさまざまな工場などで働いているという。だが西側の専門家などによると、これらの人々はわずかな賃金で農業、織物工場、建設業などに駆り出されている。また、チベットからの情報によると、これらの労働者は軍事訓練のようなものも強制されているという。
専門家によると、中国はチベットの地方の人々を労働者として都会人化することで、チベットの伝統的な生活・文化などを破壊している。ダライ・ラマ法王はこれを文化的ジェノサイドと言って深刻に受け止め、国際世論に訴えておられる。
習近平中国国家主席は毛沢東の文化大革命を再現しようとしている。中国の領土拡張主義、中華帝国の実現を加速させるためには、香港や台湾に対しても露骨に挑発し、世界の常識や世論はもはや気にする様子はない。中国のこのようなチベット人、ウイグル人、モンゴル人など、彼らの言う少数民族だけではなく、香港や台湾に対しても武力によって制覇する姿勢を明確に打ち出している。チベットから入ってくる情報では、チベットにおいて軍事工場なども多数建設されており、多くの若者はここにも駆り出されている。
そして軍のさまざまな強化と増加が着々と進んでおり、インドに対しても3449㍍の国境沿いで中国軍は衝突を起こしている。あるインド人の元高官でチベット問題に詳しい人物は、中国からの領土侵害は日常茶飯事となり、その行為は巧妙かつ残酷で、今年6月にはいっさい銃を使用せず20人のインド軍人を惨殺したという。また8月、9月には双方が撃ち合うような75年ぶりの武力衝突を起こしている。もちろん、これについては双方共それぞれ相手が先に手を出したと言っている。
インド側の負傷者に関してはインターネットなどを通して人数が公表されているが、中国側は完全に非公表で、文字通り隠蔽(いんぺい)している。インド人の軍事専門家の友人によると、両政府は外相会談などを通して問題を沈静化するような努力をしているようだが、インドの軍関係者や国民は我慢の限界を超えそうだという。状況は極めて悪化しており、緊張は日々高まっている。この地域において、少なくとも限定的な戦争がいつ起きてもおかしくない状況になっている。
アジア版のNATOを
日本の菅義偉新総理は自由で開かれたインド太平洋構想を今後も重視すると明言している。また中国のこのような野望を牽制(けんせい)する意味もあって、10月中には日本、アメリカ、インド、オーストラリアの軍事外交関係者が東京で会合を開き、この4カ国の関係を強化する姿勢を見せている。だが私からすると言葉ではなく、実際に何らかの行動を示さない限り、アジアが戦場になる可能性も極めて高いと見ている。
アジアの平和と安定を本当に望むなら、中国の暴走を阻止するためにも、石破茂氏が自民党総裁選挙の時に提言したようなアジア版のNATO(北大西洋条約機構)を一日も早く具現化することこそ必要だと痛感している。菅内閣には言行一致の姿勢で臨むことを心から提言したい。