ウイグルやロヒンギャから 多数の難民を受け入れる夢

山田 寛

 

 難民問題に関わる私の新年の夢は、日本が、民族浄化的大迫害を受けている中国やミャンマーのイスラム系少数民族、ウイグル、ロヒンギャなどの難民を多数受け入れ、助けることだ。

 民族浄化問題は本欄でも取り上げてきたが、昨年1年間を通じウイグルやロヒンギャ問題への国際的反応の鈍さを見て、年初に訴えたくなった。ウイグルでは昨年、50万人の子供を親から隔離し「寄宿舎」で洗脳している、といった新残酷ニュースも伝えられた。

 ロヒンギャも出口なし。昨年末、国際司法裁判所(ICJ)で開かれた裁判で、ミャンマーの最高指導者アウン・サン・スー・チー氏が、「国軍のジェノサイド(集団殺害)」をまた強硬に否定した。でも難民は恐ろしくて帰れない。

 ウイグル問題で、ある意味最も衝撃的だったのはアジアやイスラム諸国の無関心と冷淡さだ。昨年10月末、国連総会第3委員会で、欧米や日本など23カ国が中国を批判する共同声明を出したが、すぐロシア、パキスタン、エジプト、ミャンマーなど54カ国による中国支持の共同声明に圧倒された。中国国連大使は勝ち誇り「米国や幾らかの国々は、これ以上国際社会の意に反して間違った道を進まないよう」と説教をたれた。

 23カ国の中に、日本以外のアジア諸国もイスラム諸国も皆無だった。昨年3月、イスラム57カ国の協力機構は、「中国の国内イスラム少数民族への配慮努力」を賞賛(しょうさん)する報告書まで出していた。そして国際人権団体がウイグル人を中国に強制送還しないよう訴えて来たのに、タイ、カンボジア、ネパール、パキスタンなどが強制送還を実行した。

 ウイグルの自治区ではカザフ人も多数拘束されているが、カザフスタンは黙っている。韓国も年末の中韓首脳会談で「ウイグル、香港は内政問題」とする中国の立場をあっさり受け入れた様だ。

 中国の金と政治の力に縛られ、総崩れである。

 ロヒンギャに関しては、やっとイスラム協力機構の支持を受け、西アフリカのイスラム小国ガンビアがICJ裁判の原告となった。でもそれだけだ。

 世界中で強権主義が拡大している。タイもミャンマーもカンボジアも、かつて民主化進展の代表視された国々である。

 アジアでは、中国のチベット、インドネシア領西パプアなどの問題も存続している。昨秋、完全案内付きでチベットを訪れた仏ルモンド・ディプロマティク紙記者は、「全ては静かだが、名目だけの自治区」と書いた。西パプアは民族自決の住民投票実施を要求、また燃えている。

 そんな状況の中で、日本が酷(ひど)い民族迫害へのノーを行動で示さなければ、歴史にも悔いを残すだろう。行動の一つが難民受け入れだ。現在、日本の難民受け入れでは、中国の少数民族は年間1~2人いるか否か。ロヒンギャなども同様だ。「ウイグル人は皆難民」と決めたスウェーデンの真似(まね)はできずとも、日本はもっともっと受け入れてよい。

 第二次大戦時、ナチス・ドイツ同盟国の日本でも、「命のビザ」の杉原千畝氏をはじめ、ユダヤ難民への助け人が何人もいた。

 命のビザで日本に来た難民を一生懸命支援したユダヤ学者の小辻節三氏、根井三郎駐ウラジオストック総領事代理、小辻氏を助けた松岡洋右外相、難民に温かく接した敦賀、神戸の市民、満州で数千人を救った樋口季一郎少将、欧州で護った音楽家の近衛秀麿…等々。軍国主義日本も、とにかく「人種平等」を唱えていたことが、背景にあった。

 令和の日本は平和と人権と民主主義を掲げる。迫害から逃れる難民を一層救うべきではないか。

(元嘉悦大学教授)