洋上風力で経済活性化へ 新潟県胎内市
シビック・プライド
新潟県胎内市長 井畑 明彦氏に聞く
新潟県胎内市は山・川・海という美しい自然に恵まれた人口約3万人の市である。井畑明彦市長に、コロナ対策や、地域おこしの起爆剤として取り組んでいる洋上風力発電への思いを聞いた。
郷土への自負心につなげる
地域ぐるみで子供を育成

新潟県胎内市長 井畑明彦氏(いばた・あきひこ) 昭和36年、胎内市(旧中条町)生まれ。同54年、新潟県立中条高校卒業。同58年、中央大学法学部卒業と同時に旧中条町役場勤務。胎内市役所健康福祉課長、市民生活課長、総合政策課長を歴任。平成29年10月、胎内市長に就任。
胎内市では6月下旬の時点でコロナ感染者は1人と最小限に抑えられました。
新潟市内に勤務されていた方でしたが、今は元気になられて良かったです。
市外への移動も自粛しようという動きがあったように聞いています。感染防止策をキチンとされたのですね。
市外への移動自粛の呼び掛けは特別していませんが、新潟県内は首都圏との往来が盛んである土地柄でもなく、被害を抑えられたのは、行政の指導もさることながら、県民・市民の皆さま自ら気を付けてくださったのが大きい。引き続き、感染者が出ないようにしていきたい。
井畑市長は、この度のコロナ問題を通じて感じられたことは。
心配していた世界的パンデミックが現実となり、社会・経済活動に甚大な影響がありました。医療従事者や感染者への誹謗(ひぼう)中傷が跋扈(ばっこ)し、一方で医療従事者を応援支援する動きが世界的に起きました。私はドイツのメルケル首相の素晴らしいスピーチが心に残りました。すべての医療関係者に対して「私たちのために、この戦いの最前線に立ってくれている。皆さんの仕事は尊敬に値するものである」と謝辞を述べ、さらに「普段あまり感謝されることのない人にも感謝の言葉を送らせてください。スーパーマーケットのレジ係や、商品棚を補充してくれる方…彼らは現在、最も困難な仕事の一つを担ってくれている」と連帯を呼び掛けられた。
旧東ドイツの監視下で少女時代を過ごした経験のある首相の言葉は重い。欧米の多くの国が外出禁止の強制指示を出した中で、ドイツは要請によって、自由意志で事態を切り抜けています。メルケル首相のスピーチは私を含め、多くの方々が共感されたことでしょう。
胎内市は、「自然が活きる 人が輝く 交流のまち 胎内市」をコンセプトに、まちづくりに取り組んでこられました。豊かな自然環境の活用方法として、胎内市独自の取り組みを伺いたい。
人口3万弱の胎内市は、山・川・海に恵まれています。そこで暮らす人たちが、あるがままの美しい自然を大事にし、守り育てながら、観光を軸とした交流人口の拡大へとつなげたい。もう一つは、洋上風力に象徴される再生可能エネルギーをつくり、地球環境問題に対してこの町から全国、さらに世界に発信していきたい。それが地域の価値となり、シビック・プライド(郷土をより良い場所にしたいという自負心)につなげるという構想を持っています。
洋上風力発電は、純国産かつ再生可能エネルギーである風力資源を利用したものです。地球温暖化対策、さらにはわが国のエネルギー自給率の向上に寄与するとともに、胎内市の経済活性化の起爆剤となることが期待されるため、それらのことの実現を目的として、合意形成を図っていく有益性が高いものと考えられます。
洋上風力発電はどのレベルまでいっていますか。
わが国では、東日本大震災以降、再生可能エネルギー導入の機運が高まり、中長期的に風力発電等を大量に導入することが期待されています。しかし、平野部における陸上風力発電の適地は減少傾向にあり、今後の風力発電の導入量増加には、洋上風力発電の進展が不可欠です。
日本の沿岸部では、特に北海道から、能登半島辺りまでの日本海側の風力が強く、風力発電事業を実施するのに適していると言えます。また、着床型洋上風車では、海底に風車を支持する基礎部の設置工事を伴うため、経済的に工事可能な水深であることが大前提です。加えて、発電した電気を送電するための電力系統が近隣に見込まれることも、発電事業には重要です。
この条件を満たすエリアとして、胎内市沖が考えられており、取り組んでいます。平成31年4月には、『海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律』が施行され、最大30年間の海域占用が認められるなど、洋上風力発電に関する国の推進環境がより明確なものとして整ってきました。大きなテーマは、既存の電力会社や経済産業省などが、多少コストが掛かったとしても、洋上風力などの再生可能エネルギーを国策として、本腰を入れて推し進めていってもらえるかどうかです。
洋上風力発電の導入メリットは。
洋上風力発電事業のほか、①インフラ整備や関連事業での雇用②事業関係者の定着、関連する新規ビジネス創生による人口増③既存の観光資源とリンクした観光面の活性化などが期待できます。長期的視点で言えば、持続可能なまちづくりという側面からも意義ある取り組みだと見ています。
「まちづくりは人づくり」という理念の下、未来を支える人材育成に力を入れておられます。
約2年の準備期間を経て、今年度からコミュニティー・スクール(学校運営協議会制度、CS)を市内全小中学校で実施しています。ともすれば昨今、子供を生み育てることが面倒で厄介という悲しい風潮もあるようです。児童虐待が非常に増えており、子供6人のうちの1人が貧困家庭であるという統計もあります。
CSは地域住民、保護者代表などに入っていただき、育てたい子供像を設定し、地域ぐるみで子供を育てる態勢をつくるものです。次代を担う子供たちを地元の大人の人たちが大切にすれば、明るく活力のある子供になり、関わる大人や高齢者の方も元気になれると信じています。CSを通じて、子供たちを地域の大切な宝として見守っていきたい。
高齢化社会の中で、福祉施策の充実はどこの自治体でもご苦労が多いと思います。
胎内市の世帯数は約1万。このうち、高齢者の夫婦または独り暮らしが2700世帯、つまり3割近くを占めています。核家族化が進み、在宅で親御さんを見てくださる家庭が極めて少ない。こうした現実にどう対処して、精神的に元気で過ごし「良い人生であった」と幸せを感じられる老後をサポートするかが喫緊の課題です。