豪で大規模サイバー攻撃


 オーストラリアと中国の関係が悪化している。豪州は4月、新型コロナウイルスの発生源調査を世界に呼び掛けた。これに中国は猛反発、豪州産農産物輸入や自国民の豪州旅行を制限する露骨な「制裁措置」に踏み切った。

 一方、豪州は中国からとみられる大規模サイバー攻撃にもさらされて「中国の正体見たり」と判断、日本、インドなど「価値観を共有する国」との連携強化に動き出そうとしている。

(池永達夫)

中国、関係悪化で戦狼外交か
長期戦略で米豪同盟分断狙う

オーストラリアのモリソン首相(EPA時事)

オーストラリアのモリソン首相(EPA時事)

 中国は先月、豪州産牛肉の輸入を制限、大麦への関税を約80%へと引き上げた。まさに絵に描いたような「意趣返し」で、米国との貿易戦争で自らを「自由貿易の守護者」とまで言い切った中国が、豪州に対しては経済報復に出た格好だ。爪を隠し下手に出る韜光養晦(とうこうようかい)路線から力を誇示する強硬な戦狼(せんろう)外交へ舵(かじ)を切った中国の外交路線の変化を如実に見る気もする。

 中国のこの「豪州制裁」には、商売をもって利を与え、豪州の政治を囲い込む「以商囲政」路線破綻の伏線がある。これまで中国は資源国家・豪州から、積極的に輸入してきた。その結果、豪州の鉄鉱石、大麦、ワインなど輸出の3分の1は中国向けとなった。豪州の対外貿易では中国は全体の3割弱を占め、最大の貿易相手国だ。豪州にとって豪州に来る留学生や旅行者も中国が首位だった。

 なお、経済制裁に追い打ちをかけるような仕打ちもあった。断定されたわけではないが、中国からと思われる大規模なサイバー攻撃があったのだ。

 モリソン首相は19日、「国家を拠点にする悪意ある巧妙な手口を持つ実行犯」による大規模なサイバー攻撃が豪州国内の広範囲な分野で起きていることを明らかにした。

 サイバー攻撃の標的となったのは、全てのレベルの政府機関や民間企業、教育や公衆衛生、重要なインフラの事業者などだ。

 同首相は、攻撃を仕掛けたとみられる国家には言及しなかったものの、「攻撃が相当な水準の能力を持つ国家に属する実行犯によるものであることは明白」と主張した。豪ABC放送は政府高官の話として、「悪意のある攻撃の背後には中国がいると考えられている」と報じた。

 中国人民解放軍の配下にある世界最大規模のサイバー部隊13万人をもってすれば、こうした攻撃は赤子の手を捻(ひね)るようなものだ。

 ただ、かつての豪中は蜜月関係にあった。その潮目が変わったのは3年前。野党・労働党の議員が中国企業から多額の献金を受け取り、南シナ海問題で中国寄りの発言をしていたことが発覚してからだ。

 「中国の内政干渉」と世論の反発が強まるなか、翌年には次世代高速通信(5G)のインフラ整備から華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)を締め出す措置をとり、両国関係は一気に冷え込んだ。

 我が国で先月、中国共産党による豪州取り込み工作の実態を明らかにした「目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画」(飛鳥新社)が出版された。著者は豪州人作家で、チャールズ・スタート大学のクライブ・ハミルトン教授。中国共産党が豪連邦政府のみならず、企業や主要政党、大学、メディアなどに浸透し、影響力を行使する体系的工作を行っていることを詳細に書き込んでいる。

 目を引くのは昨年5月の下院選で、中国スパイの息がかかった候補者の擁立工作だが、中国最大の狙いは、米豪同盟の破壊、豪州の属国化だったという。

 しかし、強引なやり口はやがて「衣の下の鎧(よろい)」を露呈させることになる。中国の野心を見たモリソン首相は、「脅しには屈しない」と述べた。

 また豪州外務省は今月上旬、対中牽制(けんせい)の意味を含めたインドとの戦略的関係の格上げを発表。両国の共同演習などを通じた軍事面の「相互運用性」の向上や防衛技術の協力強化などでも合意している。

 「自由で開かれたインド太平洋」構想を掲げる日本とも近く、自衛隊と豪州軍の相互訪問時の法的地位などを規定した「円滑化協定」で合意する予定だ。