世界・社会が求めるグローバル教養人の育成を
沖縄尚学附属中創立30周年記念講演会
沖縄尚学高等学校附属中学校は昨年4月、創立30周年を迎えた。その記念行事が1月21日に校内で開催され、政治家、県外の私学関係者らが多く参加した。創設者で沖縄尚学高校校長の名城政次郎・尚学学園理事長と、同附属中学校長の名城政一郎副理事長がグローバル教養人を育成する教育論について語った。(豊田 剛)
学力以上に必要な人間教育 名城政次郎理事長
なぜ沖縄県の子供たちの学力が低いか。30年前に尚学中を創立した頃、進学のための勉強よりも平和教育を強調していた。私が講演をしようとすると、学力向上や受験の話をしないように関係者から言われた。
当時、沖縄では本土と同じように勉強する風土がなかった。「受験地獄」や、受験に失敗することによる自殺などといった例外的な悪い例を見るのではなく、受験勉強し、困難を乗り越えることによって自分を磨き、人間力を身に付けることができるとプラスに考えるようにした。
1980年に沖縄の国費制度(復帰前の沖縄県で本土の大学への進学を支援するために設けられた制度)がなくなり、実力を付けなければ大学に入れないようになった。これをきっかけに、本土と同じ土俵でやれば学力は上がると考えた。
昨今、家族間の殺害など、さまざまな凶悪犯罪が起きている。人間は完全ではないから、一人ひとりが決まったことをきちんとやらないと衆愚政治になり、民主主義が崩壊してしまう。だから、高校生の時から社会を見る目を養う必要がある。
時代は変わり、沖縄の公立進学校は現在、進路・進学実績ばかり考えるようになってしまった。人間教育、すなわち、社会を明るくする人材の基礎を作るような教育を心掛けるべきだ。企業は新入社員を採用する際、大学名だけで判断するのではなくなった。社会に貢献する人材教育のあり方を考えている。
世界基準の物の見方・思考を 名城政一郎副理事長
沖縄尚学は進学校にもかかわらず、なぜ、空手、英検、ボランティア、異文化教育を必修にしているのかと聞かれることがある。
その理由は、グローバル教養人になってほしいからだ。人を評価する基準は一つではない。学力一つで人の価値観を決めてしまう傾向にあるが、価値観が一つだけで人は幸せになれない。勉強オンリーではなく、バランスが取れている人材を育てている。
今、社会の変化を見誤ってはいけない。時代はサイクルを描いている。
まず、社会が大きく変化し、社会で必要とされる人材が変わる。そうすると、人材を育てる教育が変わらざるを得なくなる。教育によって新しい人材が育つようになる。そうなると、新時代はもはや新しいものではなくなる。このサイクルを繰り返すのが現在の社会だ。
生徒には、自己実現し、社会貢献する人になってほしい。得意な部分を活(い)かして喜び、さらに、周りを幸せにできる人だ。それができる人は、「どうにかする力」と「信頼される力」を発揮する人だ。日本だけではなく、世界で大人として通用する人になる。
スポーツをはじめ、どんな分野においても重要なことは、ただ目標を立てるのではなく、「良い」目標を立てること。そうすると、それに向かって努力する。やるべき基礎をやり切る体験が必要だ。実際に、勝負の場に臨み、出し切る体験をする。勝負に負ければ悔しいが、それで終わりではない。「成長こそ成功」を旨とし、自分との勝負に勝つ。
「グローバル・シティズン」という言葉がある。これは帰属意識で、広い視野で考え行動できる人のことだ。基地問題でも地球温暖化でも、沖縄、日本、アジア、世界で起きていることを自分の問題として取り組む視点が大事だ。
グローバル・シティズンとして他に必要な要素は、責任感、政治参加の意欲、批判的思考力、公正を求める姿勢だ。
日本の教育に一言物申すとすれば、目標をグローバルに合わせ過ぎで、知に偏り過ぎだ。日本の文化力をもっと教育に取り入れるべきだ。
「世界の人々が、わざわざ日本・沖縄に来て学びたくなるものがありますか」と問い掛けてみたい。