翁長知事国連訴訟の真相 権限逸脱した国連演説

《 沖 縄 時 評 》

請求期限超過に正当な理由 資格欠如隠した2紙

翁長知事国連訴訟の真相 権限逸脱した国連演説

2015年当時の翁長雄志知事(中央)

 「翁長知事国連演説訴訟」の控訴審判決が5月9日、福岡高等裁判所那覇支部で言い渡され、大久保正道裁判長は原告側の控訴を棄却した。

 これは、故翁長雄志前知事が2015年にスイスの国連人権理事会で、参加資格がない立場で演説を行いながら公務としたのは不当だとして、県民有志でつくる「沖縄県政の刷新を求める会」のメンバーが、公費から支出された諸経費(渡航・宿泊費等)の県への返還を求めた住民訴訟だ。

 原告は知事の国連演説の2年後の17年10月13日、県に住民監査請求を行った。しかし同27日に「1年以内の請求期限を経過した不適当な請求」、すなわち「時効」として却下されたため、住民訴訟に踏み切った。

 那覇地裁は18年11月、同じ理由で訴えを棄却した。そして、今回の控訴審判決も第一審の判決を踏襲した。判決文には「本件控訴を棄却する」とだけ記載され棄却の理由は記載されていない。第一審判決の通り時効という意味だ。判決後、原告は「納得できない判決」として最高裁に上告した。

 この訴訟には、「時効」の問題以外には、国連演説の内容が県知事の職務として認められるか否かという争点がある。

 一般的な沖縄県民が翁長知事の国連演説に関する情報を得るには、琉球新報と沖縄タイムスの報道を通じてしか他に知る手だてはない。当時の沖縄2紙の報道は、沖縄県知事が国連の招待で演説の場を与えられたという印象の報道で埋め尽くされ、県民は国連演説が知事の公務の一環と信じるのは当然の成り行きであった。

 しかし、意図的か否かはさておき、沖縄2紙が「翁長知事に国連での発言権がない」という事実を一行も報道しなかったことが問題だ。

 原告は時効とされる国連演説から1年経過した後、産経新聞の報道により「知事には国連での発言権はない」などの事実を知り、直ちに公費返還の審査を請求し、その結果を不服として提訴した。

◆NGOが発言枠提供

 外務省によると、国連の規定で演説が認められるのは①非理事国政府代表者②国際機関代表者③国連経済社会理事会に認められた協議資格を有するNGO―の3者に限定されている。発言資格のない翁長氏は、3番目に相当するNGO「市民外交センター」から発言枠を譲り受けた。同センターは、琉球独立運動を展開している左翼系団体で、恵泉女学園大の上村英明教授が代表を務める。

 産経新聞によると、民間団体「沖縄『建白書』を実現し未来を拓く島ぐるみ会議」がNGOとの調整に動き、翁長氏の「国連演説」に関しては県側はほぼ蚊帳の外に置かれていたという。

 原告が、翁長知事の国連演説を「公務」と信じ、違法性に気付くのに時間がかかったことは弁明の余地があるはずだ。

 翁長知事の演説後、沖縄県のホームページに「翁長知事の国連での口頭説明(訳)」という題名で、「知事国連演説」全文が公開されている。

 <沖縄県の翁長雄志知事は21日午後(日本時間22日未明)、スイス・ジュネーブの国連人権理事会で名護市辺野古への米軍基地建設に反対する声明を発表した。>

 注目すべきは主語が「沖縄県の翁長雄志」であり、公式ホームページに載っているという事実だ。これを見た沖縄県民なら誰でも「知事の公的発言」と解釈する。

 また15年11月11日付沖縄タイムスは「翁長知事の国連演説声明文、151カ国・地域大使へ送付」という見出しで 次のように報じてる。

 <沖縄県は10日までに、翁長雄志知事がスイス・ジュネーブの国連人権理事会で読み上げた声明文を、キャロライン・ケネディ駐日米大使ら151カ国・地域の駐日大使や名誉総領事宛てに送付した。>

 翁長知事の国連演説声明文を151カ国・地域大使へ送付したのは、紛れもなく沖縄県。当然、差出人は沖縄県知事である。記事によると、沖縄県が「知事国連演説」全文を公文書として扱っていると報じたことになる。

 さらに同年県議会第7回定例会では、国連人権理事会演説に関し、複数の県会議員らから多くの質問が飛んだ。その中で、知事の発言資格に言及するものは皆無であった。こうした事実から、一般県民である原告らが国連総会で決められた国連人権理事会の発言資格に関するルールについて知らなかったことを責めることはできない。

 産経新聞の記事を見て即座に住民監査請求が行われたが、所定の期間を守れなかったことについては、判例の「正当な理由」があり、かつ、「相当な期間」内に提訴されたことに該当する。つまり「違法性を気付いてから1年以内」であるから住民監査請求および提訴は認められることになる。

◆翻訳詐欺で県民瞞着

 もう一つの争点、国連演説の内容が知事に職務として認められるかどうかについて考えてみる。

 翁長知事は国連演説で「our right to self-determination」という言葉を2度使い、沖縄2紙はこれをまるで申し合わせたように「自己決定権をないがしろにされた」と翻訳した。しかし、これは明らかな誤訳であり、正しくは「民族自決権をないがしろにされた」と訳すべきである。

 発言場所が国連であることを考えれば、「民族自決権」と訳されるのが普通で、国際社会では琉球民族が独立を提起したと誤認される恐れがある。沖縄県民は翁長知事に「琉球民族の独立」を委任した覚えはないはずであり、沖縄2紙の単なる誤訳で済まされる問題ではない。

 結論的には、「時効」については「違法性に気付いてから1年以内」であるため原告の請求は認められる。

 もう一つの争点の「演説資格」については、県知事の公務としての権限逸脱行為であり、発言内容も翁長知事の個人的イデオロギーの主張にすぎない。

 国連演説での翁長氏の身分はNGOの一員にすぎず、費用はNGOが負担するか、個人で賄うべきだ。また演説内容に関して「沖縄独立」志向の演説内容も日本国民の歴史的民族学的見地とは相いれない。翁長知事は民間団体の国際世論工作に県民の血税で加担し、結果的にNGOに公金を横流したことになる。

 翁長知事は沖縄県と沖縄2紙、NGОとの4者による共同謀議により「翻訳詐欺で県民を瞞着(まんちゃく)した」と厳しく断罪されても仕方がない。

(コラムニスト・江崎 孝)