辺野古・県民投票分析、民意は移設容認にあり
《 沖 縄 時 評 》
「6割が反対せず」に重み
「圧倒的」は事実誤認
「反辺野古の圧倒的民意を示す」。これが共産党や社民党などで作る「オール沖縄」のスローガンだった。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を問う沖縄県の県民投票は2月24日、「賛成」「反対」「どちらでもない」の3択で行われ、反対が71・7%を占めた(以下、%は概数)。
この数字は一見、「圧倒的」のように見える。だが、投票結果を分析すればするほど、「圧倒的」の文字がかすみ、ついにはまったく逆の結果が見えてくる。県や地元紙は「県民の権利を行使しよう」の投票促進キャンペーンを張ったが、それでも投票率は半数をわずかに超える52・5%にとどまった。「反対」の71・7%は全有権者の割合でみると37・6%にすぎない。4割にも達しなかったのだ。
一方、棄権は47・5%に上った。棄権には反対キャンペーンに応じない明確な意思が少なからず秘められている。これに「賛成」19%と「どちらでもない」8・7%を換算すると、有権者の62・4%が反対の意思表示を示さなかったことになる。県民の6割以上が事実上、辺野古移設を容認したのだ。この事実は重い。
沖縄では1996年に「基地の整理・縮小と日米地位協定の見直し」を問う県民投票があった。95年の米兵少女暴行事件直後で、大田昌秀・革新知事(当時)が米軍用地の強制使用手続きの代理署名を拒否したが、裁判で敗訴。それで県民投票で反基地の民意を示そうとした。だが、県税の無駄遣いと批判され、盛り上がりに欠き投票率は59・5%にとどまった。それでも賛成は91・3%で、全有権者の53%を得た。
◆投票率6割に届かず
今回の県民投票は96年の再現をもくろんだものだ。仲井眞弘多(ひろかず)元知事が2014年12月に沖縄防衛局の辺野古の埋め立て申請を承認したが、翁長雄志前知事が取り消した。このため国が代執行訴訟を起こし16年12月、最高裁は翁長知事の承認取り消しを違法とした。そこから県民投票論が持ち上がった。
その論拠は「翁長知事の承認取り消しが最高裁で違法とされ、当時と同じ主張をすれば裁判所は迅速に違法判断する可能性が高い」(成蹊大学法科大学院・武田慎太郎教授)。それで「(県民投票で)ノーの意志が示されれば裁判所を含めて誰も無視できない」(弁護士・新垣勉氏)というのだ。県民投票での反対民意を根拠に辺野古工事を阻止しようというのが狙いだった。
それで反対派は反辺野古の圧倒的民意を示す必要に迫られた。96年県民投票を踏まえ、投票率は「せめて6割を超えたい」とし、反対票は有権者の半数超えを目指した。だが、いずれも達成できなかった。それでは裁判所は反辺野古を民意と見るだろうか。
と言うわけで反辺野古派は「反対71・7%」の数字を躍らさざるを得なくなった。反辺野古派の急先鋒である地元紙だけでなく、朝日など本土左派紙も「71・7%」を強調し、反対が「圧倒的民意」との印象操作に躍起だ。
例えば、朝日は2月25日付1面トップで「辺野古『反対』72% 玉城氏『工事中止を』 知事選の得票超す」、2面で「辺野古移設、明確な『NO』 43万票超、知事『極めて重要な意義』」と報じた。投票率は1面に「割見出し」(副次的に小さく扱う)にあるだけだ。
確かに投票結果の71・7%も43万票も事実である。だが、棄権した県民の存在を顧みず、この数字だけを振り回して「反対が民意」と叫ぶのは強引過ぎる。
このことは投票結果をおさらいすれば分かることだ。一部学者は「近年の都道府県の知事選の投票率は、おおよそ60%から40%の間」が多いから今回の低投票率でも評価できるとしている(仲地博・沖縄大学長=沖縄タイムス3月5日付)。
果たしてそうか。争点が盛り上がる内容なら、投票率は優に60%を超えるのが近年の選挙の特徴だ。「政権交代ええじゃないか」の09年総選挙(民主政権誕生)は69・3%、小泉政権の05年「郵政選挙」は67・5%(全国平均)。いずれも争点が一点に絞られ、投票率は7割に迫った。
沖縄でも翁長雄志氏が当選した14年知事選は64・1%、昨年9月の知事選は63・2%。盛り上がればこんな投票率になる。97年の名護市の「米軍のヘリポート基地建設」をめぐる市民投票では実に82・4%だった。こう見れば、今回の52・5%がいかに低投票率かが一目瞭然だ。
◆反対率低い基地の街
なぜそうなったのか。当初、賛否を2択で問うとしたので「普天間飛行場の危険性除去が抜け落ちている」として5市が不参加を表明。これに対して反対派は投票参加運動を繰り広げ結局、3択となった。それでも棄権が半数に迫ったのは投票自体が拒否されたからにほかならない(以下、棄権した県民を考慮して反対率は全有権者に占める割合で示す)。
普天間飛行場のある宜野湾市では昨年9月の市長選の投票率は64・3%だったが、今回は51・8%と大きく沈んだ。反対も34・4%と低調だ。辺野古の地元、名護市でも昨年2月の市長選の投票率は76・9%だったが、今回は50・5%。落ち込みぶりが激しい。反対も36・6%にとどまった。
尖閣諸島を所管し中国の軍事脅威にさらされている石垣市は投票率が44・6%、反対は33・2%。宮古島市に至っては投票率38・5%で、反対は27・5%。「基地の街コザ」のある沖縄市でも投票率は49・9%で、反対は34・8%だった。
沖縄市以外の「米軍基地の街」を見ると、嘉手納基地のある嘉手納町は投票率52・5%でほぼ平均並みだが、反対は36・1%と平均以下。沖縄における最大の軍事演習場、北部訓練場がある東村では投票率57・2%と高いが、反対は36・6%で県平均以下だ。
また米海兵隊のキャンプ・ハンセンがある金武町は投票率が48・8%で、反対は33・1%。米軍基地が島の3分の1を占める伊江村は投票率49%、反対29・4%。「基地の街」ではほとんどで投票率が半数に届かず、反対も際立って低い。米軍基地のある街が「基地反対」を叫んでいるわけでは決してない。
これで投票結果が沖縄県民の「民意」と誰が言えようか。民意は移設容認にあり、と見るのが正しい。政府は「6割が反対せず」の重みに応え、反辺野古の声に惑わされずに移設工事を毅然(きぜん)と進めるべきだ。
増 記代司






