琉球新報の熊本地震社説 支援したオスプレイを批判
《 沖 縄 時 評 》
ヒューマニズム喪失に愕然
琉球新報4月20日付社説には愕然(がくぜん)とさせられた。もう、琉球新報にはヒューマニズム(人道主義・博愛主義)が微塵(みじん)もないと思わされた。新聞の根底にはヒューマニズムがなければならない。しかし、琉球新報の社説「オスプレイ派遣 災害の政治利用はやめよ」にはヒューマニズムのかけらさえない。反オスプレイ、反米軍基地というイデオロギーが充満しているだけだ。ヒューマニズムがない。イデオロギーしかないのだ。
米軍がオスプレイ派遣を打診したので安倍政権が受諾した。それに対して琉球新報社説は「オスプレイ派遣 災害の政治利用はやめよ」である。
4月17日の社説「九州地震拡大 新たな被害防ごう 避難者にきめ細かい支援を」では、避難している住民が9万人余りいて、「生活物資の支援、仕切りやトイレ、女性への配慮など避難所運営にも工夫が必要だ」と述べている。
イデオロギー露骨
4月19日の社説「災害対応 避難・支援計画を見直そう」では、「熊本地震の被災地では多数の人が避難しているが、道路寸断などで物資不足が深刻化している。飲み水さえ足りず、指定避難所の校庭にパイプ椅子で『SOS』の文字ができる光景は衝撃的だ。一刻も早く物資が行き渡るよう、政府は最大限の支援態勢を敷くべきだ」と述べている。
4月14日に震度7の地震があり、16日にも本震となったマグニチュード7・3、震度7の地震があった。余震と本震で2度の震度7以上の地震は観測史上初めてであり熊本の被害は甚大であった。道路は寸断され、物資不足が深刻化している状況で米軍のオスプレイ支援は当然である。ところが、オスプレイが絡んでくると一変して、琉球新報の社説は支援問題が消し飛んで反オスプレイ・反米軍基地のイデオロギーを露骨に出す。
オスプレイ派遣が決まった翌日に、琉球新報は「熊本地震の災害支援で米軍普天間飛行場のオスプレイ4機が派遣されたことについて、県内からは『政治的意図を感じる』との声が上がっている」と報道した(19日付社会面)。そして、オスプレイ派遣に反対する人の意見を掲載した。
――東村高江の田丸正幸さん(47)は「災害支援という形だが、単なるオスプレイのPRだ。自衛隊で十分で、米軍を向かわせる必要を全く感じない」。
宜野湾市野嵩に住む40代の女性は「米軍が震災の支援をしてくれること自体はうれしいが、やはり安全面などに不安が残る」。
名護市辺野古の新基地建設に反対する抗議船の船長、桑代孝朗さん(43)は「熊本の被災地は陸の孤島ではないのに、オスプレイが出動する必要があるのか」と疑問視した。
オスプレイ配備反対の県民大会で共同代表を務めた照屋義実県政策参与は「別の支援方法もある中で、いきなりオスプレイを持ってくるところに、国民感情を和らげたいという政治的意図を感じた」と指摘した。――
琉球新報はオスプレイ熊本派遣反対派のオンパレードである。この人たちは熊本の避難者の物資不足の深刻さを真剣に考えていない。琉球新報はヒューマニズムが失墜した反オスプレイ・反米軍基地イデオロギーに凝り固まっているだけだ。反オスプレイ派の記事掲載の翌日は「オスプレイ派遣 災害の政治利用はやめよ」の非ヒューマニズムの社説である。
迅速な輸送を展開
熊本に派遣されたオスプレイは普天間飛行場所属であるが、熊本に派遣したのはフィリピンで訓練していたオスプレイである。それは優秀なパイロットを選んだからである。オスプレイは17日午前にフィリピンを出発し、普天間飛行場を経由して午後6時半ごろ山口県の岩国基地に到着した。岩国基地から飛び立ったオスプレイは約50分後に熊本県八代港沖に停泊中の海上自衛隊の護衛艦「ひゅうが」の艦上に着いた。100人近い艦の乗組員らが列を作り、水や食料が入った段ボール箱をバケツリレー方式で次々にオスプレイ機内に積み込んだ。
艦の広報によると、500㍉㍑入りの水1万5000本、缶入りのご飯1万1000食、レトルト食品2700食という大量の物資を、わずか15分ほどで搬入し終えたという。給油時間を含め、「ひゅうが」での滞在時間は40分弱。飛び立った機体は約20分後、南阿蘇村のグラウンドに着陸していた。
待ち構えていた陸上自衛隊員約50人による搬出作業も約10分で終了した。グラウンドを離れた機体は約30分で岩国基地に到着した。自衛隊と米軍の連携は緊密で、一連の活動は3時間以内に終わった。オスプレイは主力輸送ヘリCH46と比べ、速度は約2倍、航続距離は約4倍で、積載量も約3倍といずれの性能も上回る。
安倍首相が支援受け入れをした翌日には南阿蘇村に救援物資を届けたのである。オスプレイがスピード、飛行距離の点で災害支援で非常に有効であることが分かる。しかし、琉球新報社説(20日付)はその事実を無視する。
「熊本地震の支援活動の一環として、米軍普天間飛行場所属の新型輸送機MV22オスプレイ2機が熊本県に救援物資約20㌧を輸送した。被災地救援への協力に対して米国政府にまずは感謝したい」と形式的な謝礼を述べた後に、「ただし背後に日本政府の政治的な意図が見え隠れするのは気に掛かる」とオスプレイ派遣は政治的な思惑があることを匂わすのである。
政治的な思惑であることを書き続ける琉球新報社説であるが、あまりにもお粗末な説明が続く。陸上自衛隊が導入するオスプレイを佐賀県や地元の同意が得られないので、被災地支援で安全性や有用性を訴え、理解を得るというシナリオを政府が描いていると新報社説は予想し、「防衛省幹部ですら『あまりにも露骨過ぎる』と否定的に見るのは当然だろう」と述べている。道路は寸断され、増え続ける避難所への援助物資は行き届いていない。そんな状況の中で、オスプレイ派遣を否定的に見る防衛省幹部がいるはずがない。新報がでっち上げたとしか考えられない。
反対のため粗探し
また、2015年版防衛白書を持ち出して、固定翼・回転翼機は陸上自衛隊だけでも222機あるのに、派遣した固定翼・回転翼機は118機だからまだ余力があると見ていいと述べ、オスプレイは不要であると主張する。情報収集機も輸送機として計算に入れている。めちゃくちゃな計算である。問題は一刻も早く食料・飲料水を届けなければならないことである。それを優先させればオスプレイ受け入れは当然の判断であるが、反オスプレイ・イデオロギーの新報社説はオスプレイが必要でない根拠を探すのに懸命である。
一番ひどいのが「15年のネパール地震で災害支援に派遣されたオスプレイは、住宅の屋根を吹き飛ばし、現地紙に『役立たず』と酷評された」の文章である。オスプレイに関する文章はそれだけである。読者にオスプレイは「役立たず」であることを信じさせようとしているのが見え見えである。屋根を吹き飛ばしたのは一度だけである。ネパールでの援助活動は行われたのに屋根を吹き飛ばしたことだけを新報社説は書いている。
2013年にはフィリピンが大型台風に襲われ大被害を受けたが、普天間飛行場から14機のオスプレイが派遣され、島が多く交通が遮断されたフィリピンで多くの人を救助した。その事実を琉球新報社説は一行も書いていない。新報社説はオスプレイの性能を一切伝えないで、「役立たず」を喧伝(けんでん)しているのである。
琉球新報社説は熊本地震被災の深刻な問題よりオスプレイ問題を優先している。オスプレイが活躍することで熊本県民や全国民に認められることをなんとかして食い止めることに奔走しているのである。熊本支援はヒューマニズム(人道主義・博愛主義)の精神である。政治・軍事は関係がない。国民も安倍政権もその精神である。
しかし、琉球新報社説は違う。反オスプレイ・反米軍基地・反日米安保のイデオロギーを優先させている。琉球新報社説はヒューマニズムを喪失させていると言わざるを得ない。
(小説家・又吉 康隆)






