ポルノは健康脅かす「公衆衛生危機」
ユタ州が全米初の決議採択
脳の発達や男性機能に悪影響
米西部ユタ州は先月、インターネット上に溢(あふ)れるポルノを精神的、肉体的に深刻な健康被害をもたらす「公衆衛生上の危機」と見なす決議を全米で初めて採択した。決議に法的拘束力はないが、これをきっかけに、ポルノには薬物と同じような中毒性があり、脳の発達や男性の性的機能に悪影響を及ぼすといった健康面での有害性が認知され、議論や対策が進むことが期待されている。(ワシントン・早川俊行)
ユタ州の決議が画期的なのは、ポルノの有害性を単なる道徳的理由ではなく、公衆衛生の視点から取り上げたことだ。
決議はポルノについて、「脳の発達・機能に影響を与え、感情的・内科的疾患をもたらし、異常な性的興奮を形成し、緊密な関係を構築・維持するのを困難にし、有害な性的行動・依存をもたらす」と指摘。ギャリー・ハーバート州知事は「薬物やアルコールの危険性はよく知られているが、ポルノも心理的、生理的に有害であることを若者に知ってもらいたい」と、決議の意義を強調した。
ポルノの有害性をめぐる議論は今に始まったことではない。だが、この問題が深刻化しているのは、ネット上に膨大なポルノが溢れ、また、スマートフォンやタブレット端末の普及により、ポルノへのアクセスが飛躍的に容易になったからだ。
米メディアによると、2006年2月の1カ月間にアダルトサイトを訪問した米国人は約5800万人だったが、10年後の今年1月には2倍近い約1億700万人に拡大。ポルノサイトの月間アクセス数は、アマゾン、ネットフリックス、ツイッターの合計よりも多いとされる。
憂慮すべきは、ポルノ利用者の低年齢化だ。ユタ州の決議によると、初めてポルノに触れる平均年齢は11~12歳。脳が発達途上の段階から、モザイクのないハードコアを含め、過激なポルノを見続ければ、さまざまな弊害をもたらすことは容易に想像できる。
これについて、米タイム誌は4月11日号のカバーストーリーで、衝撃的な内容を報じた。若い頃からポルノを大量に視聴した結果、バーチャルなポルノ女優にしか下半身が反応しなくなり、実際の女性との性交渉では体が反応しない男性が急増しているというのだ。専門家の見方によると、こうした男性機能の異常は、ポルノが脳に影響を及ぼした結果である可能性が高いという。
同誌は、ポルノを無制限に視聴できるインターネットを「あらゆる種類のセックスの食事を提供する24時間食べ放題のビュッフェレストラン」と表現。「若者たちはこれをむさぼり食っている」と、子供の頃からパソコンなどを利用するネット世代が“ポルノ漬け”になっている現状に警鐘を鳴らした。ある男性は同誌に、14歳までにネットポルノで毎日10回も快楽を得ていたと証言している。
ポルノ業界や一部メディアは、ユタ州の決議を「科学的根拠がない」と批判している。だが、ゲイル・ダインズ・ウィーロック大学教授は、ワシントン・ポスト紙への寄稿で「科学(的根拠)はある。ユタ州の決議は最近の研究を反映したに過ぎない」と反論し、ポルノの有害性を示す証拠として、以下のような研究結果を挙げている。
▽男子大学生を対象とした調査によると、ポルノを視聴する人は過去1年間視聴しなかった人に比べ、レイプ・性暴力への願望が強い。
▽1978~2014年に行われた7カ国22の調査を分析したところ、ポルノ視聴が性暴力の増加と結び付いていることが判明。
▽2012年の調査によると、ポルノを視聴する男性パートナーを持つ若い女性は、自尊心を傷付けられるなど苦しんでいる。
▽2004年の調査によると、性的な映像の視聴は若者の性行為開始を大幅に早める。
ポルノが性暴力を助長するのは、暴力的なシーンが多いからだと考えられる。人気ポルノから無作為に抽出した304シーンを分析したところ、9割近くで女性への身体的攻撃が含まれていたという調査結果もある。
このほか、ポルノには薬物と同じような中毒性があることや、脳の機能を低下させることを示す研究結果も出ている。
ユタ州の決議には法的拘束力がなく、ポルノサイトを規制したりするものではない。だが、ポルノ問題に取り組む市民団体からは、「今後の道しるべになる」と称賛の声が上がっている。タバコが肺がんなど健康被害をもたらすことが認知されたことで規制強化が進んだように、ポルノもその有害性を広く理解してもらうことが対策を講じる第一歩となるからだ。
米メディアによると、15州でユタ州と同様の決議採択が検討されている。











