総裁選 控え目な安倍氏再選記事

日本の自衛権を取り戻せ

 9月まで異例の延長となった通常国会の中で行われた自民党総裁選だが、9月8日の告示日に安倍晋三総裁(首相)の他に立候補者がなく無投票再選となったこともあり、同党機関紙の扱いは極めて控え目であった。「自由民主」(9・15)は、1面の北方領土問題に関する伊藤良孝党北方調査会副会長インタビューの枠外に「総裁選/安倍総裁再選」の記事をトップとして押し込めた形だ。

 写真は当選決定通知を谷垣禎一幹事長に野田毅党総裁選挙管理委員長が手渡すもので、当選者抜きの即興仕立て。過去に自民党総裁選は天下分け目の戦いに擬せられ、機関紙では華々しく扱ってきたが、これほどあっさりした紙面は例がない。それほどに長引く安全保障関連法案審議は同党政権の歴史の中でも大きな難所であり、総裁再選のお祭り紙面は後回しといった観である。同紙9月22・29日号1面テーマは「『女性活躍』の基本方針を了承」に移った。最終面の写真ニュース「Weekly Jimin」にも総裁選は扱われなかった。

 自民党総裁選は複数の立候補があれば20日が投票予定だった。同紙9月15日号記事が総裁選結果を報告する「後日開催予定の『党大会に代わる両院議員総会』」は24日に行われる。その前の難関が参院の安全保障法案採決だ。安倍首相は法案成立について「決めるときは決める」ことを与党に要請し、16~17日には特別委採決のヤマ場を迎えた。

 同党としては同法成立後、24日両院議員総会で「新たな任期は平成27年10月1日から平成30年9月30日の3年間」となる安倍総裁再選報告、党役員人事、10月早々の内閣改造で政権後半のスタートをしたいところだ。この節目の時期に同党機関紙の有識者連載は明治大学政治経済学部准教授・飯田泰之氏の「アベノミクスと今後の日本経済」(全4回)、また「女性活躍」基本方針を9月22・29日号で打ち出すところ、内閣改造後の優先課題が示されていよう。

 しかし、安保国会の後遺症は間違いなく残る。「一強多弱」の中の強い与党の苦戦は憲法9条にある。日本の自衛権について個別的自衛権と集団的自衛権はあるものの集団的自衛権については行使を禁じた従来の政府憲法解釈を変更し、部分的に集団的自衛権を認める作業には大きな苦労を伴うものとなった。審議中に党幹部らの「フルサイズの集団的自衛権ではない」との説明から、これ以上は憲法解釈も限界で、自衛権に制限は加えられたままだ。

 しかし安倍首相は、限定的であるが集団的自衛権行使の容認による安保法制で自衛権をまた一部取り戻し、「日本を取り戻す」公約は一つ前進しつつある。今後、日本に「普通の国」のような自衛権を取り戻すには憲法改正が必要だ。

 今回の反対騒動で明らかなように、国民の大半が支持する自衛隊にも憲法学者の多くが違憲説に立っているのが現状だ。その影響を教育や世論が受ける。このような国論二分の状況は解消しなければならない。

解説室長 窪田 伸雄