消費税還付案、誰のための負担軽減策か


 2017年4月に予定されている消費税率10%への引き上げに関して財務省が負担軽減案をまとめた。

 消費者に過大な負担を強いるものであり、とても負担軽減策とは呼べない。過去の消費税増税が及ぼした経済への悪影響に対する反省も見られない。負担感の大きい低所得者が恩恵を受けられるか疑問である。

マイナンバーを活用

 財務省が提示した案は全ての品目で10%の消費税で徴収した上で、酒を除く飲食料品にかかった2%分を後に還付するというもので、還付額の把握にはマイナンバー(社会保障と税の共通番号)制度を活用する。

 この案の問題点はまず、消費者が対象品を購入する際は、マイナンバー制度の導入後に「希望者」に交付される個人番号カードを提示しなければならないこと。このため、個人情報の流出などを懸念して希望しない消費者は還付の対象にはならないのである。

 また、同カードを提示して買い物をしても、消費データは国が新たに設置するセンターに蓄積されるものの自動で還付処理をしてくれるわけではなく、原則消費者が申告手続きを行う必要がある。申告をしないと、この場合も当然還付されない。

 さらに、所定の手続きを行っても2%分全額が還付されるわけではなく、年間で1人当たり4000円程度の上限がある。酒を除く飲食料品を一律2%の軽減税率の対象にすると、消費税収は約1兆3000億円減少するが、上限により約5000億円で済むという。同カードを希望せず、また還付申告をしない消費者を考慮すれば、さらに減少額は少なくなる。

 消費者にとって10%での消費という痛税感は緩和されず、しかも還付には前述のような負担と制限を強いる。このような案を正式な負担軽減策のたたき台とした自民、公明両党の税制調査会の見識を疑う。

 両党税調は負担軽減策の作成を財務省に丸投げしたという。両党がこれまで軽減税率の導入で合意し、先の衆院選でも公約としてきたにもかかわらずである。対象品目の線引きの難しさ、事業者の事務負担の煩雑さなど問題が容易でないとは言え、欧州の先例もあり、政治の怠慢との誹(そし)りは免れまい。

 財務省案はマイナンバー制度を前提にしており、個人番号カードを読み取る機器を、小さな商店まで17年4月までに設置できるのかという実現性の問題もある。また3000億円とも言われる全体のシステム構築のコストも高い。

 そして何より、10%での支払いという痛税感による消費への悪影響が予想される。昨年度の消費税増税では「簡素な給付措置」が取られたが、消費減退を抑える効果は乏しかった。今回の案も実質的には同様で、過去の経験に学ぶ姿勢がほとんど見られない。

再増税後の対策十分に

 消費や設備投資など内需が振るわない上に、海外経済の低迷により輸出も冴えない景気の現状は、17年の再増税実施が可能なのか不安を呼び起こす。実施するにしても、消費落ち込みへの十分な対策が不可欠である。

(9月13日付社説)