【上昇気流】賞の選考もまた、人間世界の縮図
芥川賞・直木賞の最終選考が行われた。芥川賞1名、直木賞2名。いずれも男性だった。特別紛糾した様子はなく、発表も早かった。紛糾しないことがプラスなのかマイナスなのかは分からない
芥川賞・直木賞の選考に長らく実務者として関わった高橋一清さんの著書『編集者魂』(集英社文庫)によれば、選考会議では相当厳しい議論が行われる。だから選考過程は非公開でなければならない
公開の選考では、選考委員が本音を十分に吐き出すことは困難だからだ。昨年の東京五輪をめぐっては、非公開の議論が内部告発という形で漏洩(ろうえい)し、何人かの関係者が役職を辞任した。だが、両賞に関しては、そうした話はほとんど聞かない
とはいえ、失態はあった。2010年の直木賞選考で、選考委員の一人である人気作家(存命)の「選評」(選考後に雑誌掲載)の重大な誤記が発覚し、この委員は自身の意思で辞任した。だが、そうしたケースは例外だ
内部告発の必要がない充実した会議が行われてきたことは確かなようだ。ただ、トイレの問題がある。委員がトイレから戻って来ると、会議の流れが微妙に変化していたことはあったようだ
トイレに立った委員が熱心に推していた作家についての評価が、彼がいない間に変わっていたようなことはあったのだろう。「トイレのタイミングも選考の大きな要素」という事実は面白い。賞の選考もまた、人間世界の縮図には違いない。