東京都写真美術館で「松江泰治 マキエタCC」展


独自の視点で世界の地表撮影、遠近法と重力からの解放

 東京都写真美術館で「松江泰治 マキエタCC」展が開かれている。松江泰治さんは世界各地の都市や地表を独自の視点から撮影してきた。展示されているのは〈CC〉(2001~)シリーズと、〈makieta(マキエタ)〉(2007~)シリーズ。

 〈CC〉は「シティー・コード」を略した言葉で、作品のタイトルには撮影地の都市コードが付けられている。これは航空・運輸関係で使われている記号で、都市名をアルファベット3文字で表した文字略号。

 一方〈マキエタ〉は、ポーランド語で模型を意味する言葉。世界各地の地形や都市の模型が被写体だ。

 共通しているのは、撮影に当たって作者が設定したルール。画面には地平線や空を入れず、被写体には影が生じない順光で撮影する。そのために土地の様子が克明に写し出されている一方、画像は平面的で、ピントも画面全体に合っていて、あらゆるものが等しく存在している。

 会場ではこれら二つのシリーズが分離されずに展示されていて、見ていくと、どれが本物の風景で、どれが模型の風景なのか、区別できなくなり、混乱する観衆を作者が面白がっているようにも感じられてくる。

 松江泰治さんは1963年、東京都に生まれ、87年、東京大学理学部地理学科を卒業。2002年、第27回木村伊兵衛写真賞を受賞。主な個展に「世界・表層・時間」IZU PHOTO MUSEUM(2012年)、「地名事典|gazetteer」広島市現代美術館(18年)がある。

東京都写真美術館で「松江泰治 マキエタCC」展

ボリビアのラパスを被写体とした《LPB1733》2021年 発色現像方式印画 作家蔵

 〈CC〉シリーズで来館者を驚かせるのは、ロビー壁面に展示された巨大な作品《LPB1733》(2021年)だ。縦120センチ、横394・5センチの大きさで、ボリビアのラパスを被写体にしている。「デジタル技術を極めたい」と超高解像度で一枚の写真に仕上げた。

 岩山の斜面をおびただしい数の赤茶けた建物が埋め尽くしている。その都市空間に驚くばかりだが、近づいてみると、人がいて、車も走っていて、生活ぶりも垣間見える。目は建物の細部を追っていくが、追い切れず、留まるところがない。見ていないところもあるのに、めまいがするようで、遠ざかっていく。

 「大切なことは遠近法や重力から写真を解放すること。これによって視線は自由に画面をさまよい、見えなかったものが見えてくる。見れば見るほどに、思っていたのとは違った全体像が現れる」

 木村伊兵衛賞を受賞した時の言葉だ。

 東京を被写体にした作品もある。東京オリンピック・パラリンピック招致のために制作された模型で、ビックサイトにあったという。空撮といってもおかしくないぐらいの作品だ。松江さんは「空撮ですね」と問われると、「そう思ってもらっていいのです」と答える。「模型はミニチュアです。それだけでユーモラスで、かわいらしさがある。子供のおもちゃと共通しています」

 世界のおびただしい数の都市コードが登場するが、遠近法からも重力からも解放された都市は、コードのようで、土地に特徴的な要素を感じ取ることが難しい。1月23日まで。

(増子耕一)