【フランス美術事情】モードと美術の密接な関係


イヴ・サンローランが収集した美術品の展覧会

【フランス美術事情】モードと美術の密接な関係

「モンドリアン作品が導入されたイヴ・サンローランの作品」(Yves Saint Laurent@Nicolas Matheus Centre Pompidou)

 歴史に残る芸術家の作品は1枚数百億円の値が付くことがある。一方、モードの世界では2019年に仏女優カトリーヌ・ドヌーヴが個人所有する、故イヴ・サンローランのクチュールコレクションが総額約1億円で落札された程度で芸術作品とは比較にならない。

 2008年に71歳で他界した服飾デザイナーのイヴ・サンローランは「モードの帝王」と呼ばれた。美術品収集家としても知られ、他界した翌年のコレクションのオークション売却総額は4億8400万ドル(約630億円)を記録した。

 イヴ・サンローランは服飾デザインにおいて、優れた美術作品に多くのインスピレーションを得たことで知られている。ゴッホの絵がそのまま生地として採用され、モンドリアン作品は服全体のデザインに反映された。

 イヴ・サンローランの最初のコレクション発表から60周年を記念する展覧会が1月29日から、パリの六つの主要美術館で始まった(5月19日まで)。それぞれの美術館が所蔵するピカソやマティス、モンドリアン、リキテンスタインなどの20世紀の偉大な芸術家作品とサンローランのデッサンなどが並べて展示されている。

 フランスの大規模美術館が同時に同じテーマで展覧会を実施するのは過去に前例がなく、「これほど多くの美術館がわれわれの企画に同意してもらうことは不可能だと思っていたが、最初からすべての美術館が興味を示し、協力的だった」と同企画展のキュレーター、ムナ・メクアール氏は述べている。

 イヴ・サンローランが最初のオートクチュールショーを開催したのは1962年1月29日、当時、まだ26歳だった。「私は常に現代美術作品からインスピレーションを得てきた」と彼は生前述べている。

 今回はルーヴル、ポンピドゥー、オルセー、パリ近代美術館、ピカソ美術館、イヴ・サンローラン美術館の同時開催で、各美術館の巨匠作品と合計50点のサンローラン作品、約300点のデザインが展示されている。人間の身体にまとう服と美術に深い関係があることをサンローランは示してくれたともいえる。

 フランスの美術館や博物館、古城などにはルイ王朝時代などの貴族のきらびやかな衣服が展示されている。現代の衣服がいかに機能優先で豊かさに欠けているかに気づかされる。

 日本の着物もそうだが、機能性は悪くても、平安時代の十二単(じゅうにひとえ)は芸術の域に達しているともいえる。

 かつて服装は階級を表し、職業のステータスを表現する役割もあったために今とは異なる発展を遂げたといわれている。サンローランは自らをあくまで芸術家とは言わなかったし、自分の作品を芸術作品とも言わなかった。商業界のデザイナーであり、職人であり、富豪だった。

 そして現在の価格にして約630憶円相当の巨匠の芸術作品を収集し、芸術に敬意を払っていたのも印象的だ。

 ただ、彼のデザインの下地である膨大なクリエーティブなスケッチを見ると、改めてモードとアートの関係を考えさせられる機会になっている。

(安部雅延)