沖縄県民投票の茶番劇を斬る

OKINAWA政治大学校名誉教授 西田 健次郎

知事が移設反対運動主導
投票率上げに手段を選ばず

西田 健次郎

OKINAWA政治大学校名誉教授
西田 健次郎

 沖縄県宜野湾市の米海兵隊普天間基地の沖縄本島北部キャンプ・シュワブ海上への移設を、玉城デニー知事は、ありとあらゆる手段で阻止しようとしている。県はついに、5億円以上の県税を使って「県民投票」という政治パフォーマンスを演じた。当初、知事陣営は、全有権者の70%以上の辺野古反対票を集めると息巻いていたが、結果は投票率52%で反対票は有権者全体の39%でしかなかった。

 これは無駄で無意味な空騒ぎであり、投票に行くのもアホらしいという県民の冷めた声が現れた結果だ。フランス革命を批判した哲学者オルテガや保守派の評論家・西部邁、中島岳志は、政治・社会が熱狂する時は、その熱狂を疑えと警告している。

 投票率を上げる狙いで、反日反体制の地元メディアは連日、紙面の大半をヤラセ記事が踊り、期間中は数千万円以上と思われる広告で煽(あお)っていた。幟(のぼり)、チラシが洪水のように街に溢(あふ)れた。

 中立公正でなければならない知事は、髪を振り乱して先陣に立ち、県民投票の実行委員幹部は県民投票の実施に難色を示した市長らとの面談で、訴訟やリコール運動を示唆するなど脅迫まがいで反対運動を主導した。

 23年前の名護市民投票と同じように、沖教組の仕掛けで未成年、学生、児童を誘導する反対運動もあった。このような辺野古反対の嵐の中で、普天間基地の危険性除去には辺野古移設しかないと確信する保守派は、まるで沖縄のアイデンティティーを知らない“非県民”扱いされているようなムードを余儀なくされた。このアイデンティティーとは、古琉球以後の恨みつらみだけにこだわることでしかない。

 住民投票は、ソフトで民主主義の本質であるかのような錯覚を起こすが、実は民主主義運用上、重大な欠陥がある(詳細は次稿に譲るとする)。法律上の規制は全くないので、県条例で買収や強要などは好ましくないと規定はしているが、罰則がないため全てやりたい放題。実行した陣営が得をする仕組みになっている。

 それでも11万人が埋め立て賛成に投じている。彼らの勇気と信念には感謝感激している。

 23年前の名護市民投票の時、筆者は自民党県連会長で、前知事の故翁長雄志氏は県連総務会長だった。われわれ2人が中心となり、住民投票の政治ショーには徹底的に反対したことを知る人は少ない。

 今回も筆者は「投票に行くな」と声高に呼び掛けた。自民党県連も静観するのではなく、堂々と戦えば、投票率も30%程度で収まっていたはずだ。そうなら、県民投票が茶番劇になり、実質的には、苦渋の現実的選択を主張する自民党の勝利となっていた。

 政党は、戦うことによって強くなり、信頼も支持も上昇するという組織論理を実践すべきだと、あえて県連に物申したい。民主党政権の鳩山首相が「最低でも県外国外」と公約した。民主党のマニフェスト、鳩山氏の言動に半信半疑ながら、自民党県連も県外移設に越したことはないと賛成した。時の政権政党が歴史的な決意をしているのならばと、県外に舵(かじ)を切ったのだが、結果的に騙(だま)された。

 民主党は、結果的に辺野古に舞い戻ることで国民の顰蹙(ひんしゅく)を買い、鳩山政権は溶解した。その後、民主党は幾多の政党に分裂した。立憲民主党の枝野代表は、民主党の重鎮であったし、玉城知事も民主党から自由党に移った。このように、政党間をウロウロし、オール沖縄や県民投票運動をリードし、各種選挙では革新統一候補を擁立することで、着々と党勢を拡大している。

 玉城知事には、いつの間に辺野古移設反対に政策を変更したのか、経過を詳細に国民および県民に説明する責任がある。辺野古反対のワンイシューだけでなく、普天間基地の危険性除去に具体的にどう取り組むのか。「移設は国が決めるべきだ」と逃げているが、山口県岩国市では2006年、住民投票で90%の反対票があったにもかかわらず、厚木基地(神奈川県厚木市)から空母艦載機が移駐された事実も学習すべきだ。

 仮にほかの移設場所を新たに模索するなら、地元の同意、環境アセスなどの事前作業が必要になり、移設まで30年は要する。辺野古はあと12年程度で完成するのだ。

 その間に、中国が軍事と経済の両面で米国を凌駕(りょうが)する。覇権国家の野望がなくなると、アジアに平和が訪れる。それがいつなのかは予測がつかないが、少なくとも米軍が沖縄に居座る必要はなくなるだろう。

 政治は、未来への夢を語りながら現実的に選択、決断、前進しなければならない。日米特別行動委員会(SACO)合意で普天間飛行場の危険性除去と嘉手納基地以南の米軍基地返還を実現すれば、近未来に米軍が沖縄から撤退する道筋ができる。基地跡地には、航空自衛隊を那覇空港から移駐させるとか、沖縄本島北部のやんばるを空のハブとして活用する壮大な夢を抱きたいものだ。

 知事は、筆者を含めた保守派が提起している普天間飛行場の早期返還の在り方を議論することもなく、安保体制を無視した主張をしてカチャーシーを踊っている場合なのだろうか。

(にしだ・けんじろう)