中国資金に依存させ影響力

米ハドソン研究所上級研究員 ジョナス・パレロ・プレスナー氏

中国は他国で影響力を拡大する工作活動に力を入れているが、その特徴は。

ジョナス・パレロ・プレスナー氏

 ジョナス・パレロ・プレスナー氏 欧州外交問題評議会(ECFR)の上級政策研究員やデンマーク政府の上級顧問などを経て、現在、米シンクタンク、ハドソン研究所上級研究員。昨年6月に中国による対外工作活動について包括的にまとめた報告書を発表した。

 民主主義国家において、人権問題や新疆ウイグル、チベット、台湾など中国共産党にとって敏感な話題に触れないようにさせて議論を限定させるとともに、中国に対する批判を抑え込むという特徴がある。また、ビジネス、政治、文化など各分野のエリート層に浸透し、協力者を作る。こうした工作によって、その国民が中国に対し好意的な見方をするように働き掛けている。

 こうした影響力の源泉は、共産主義のイデオロギーというより、豊富な資金力だ。

ロシアによる他国への干渉との違いは。

 ロシアは他国への介入によって、民主主義国家に分裂や混乱をもたらし、民主主義の制度を貶(おとし)めることを狙っている。この点、中国とは全く異なる。

 選挙介入の特徴を見ても、ロシアは選挙制度そのものへの不信感を広めようとするが、中国は自らに近い候補者を当選させようとする。

ロシアよりも中国による干渉の方が脅威か。

 短期的に見れば、ロシアによる干渉は大きな混乱を招く危険性がある。しかし、中国は世界第2位の経済規模を持ち、建国から100年目の2049年までに偉大な国になるという目標に向け、長期的な視点から対外工作活動のために巨額の資金を投入している。

中国による影響・干渉工作の深刻な実例は。

 中国政府系の教育機関「孔子学院」の問題は、それが大学内に設置されることだ。資金を援助する見返りに、大学に対しさまざまな要求をする。これにより大学における学問の自由が徐々に侵害されていく危険がある。この点でドイツのゲーテ・インスティテュートなど政府が資金を提供する他の語学機関とは異なる。

 中国の資金に依存させることで、影響力を発揮させようとする例は他にもある。中国政府系の英字紙チャイナ・デイリーが欧米の新聞社に出している広告記事は、一見すると普通の記事に見える。懸念されるのは、これによって中国共産党によるプロパガンダが浸透していくことだ。

 しかし、それ以上に心配なのは、ワシントン・ポスト紙やウォール・ストリート・ジャーナル紙のような米大手新聞社が、こうした広告収入に依存するようになっていくことだ。

中国共産党による干渉・影響工作の目的は。

 中国共産党による一党独裁体制を維持することだ。国内では統制を強めることで国民を抑圧し、国外では影響・干渉工作を用いているが、目的は同じだ。違いは、国内では新疆ウイグルのように厳しい抑圧を行うが、国外ではより巧妙なやり方をする。

中国は共産主義思想が民主主義の価値観と比べ弱いと考えているのか。

 ある意味でそうだ。中国が国内で検閲や欧米のNGOの活動を制限するのは、西欧の価値観が浸透することへの不安感からだ。中国共産党による対外工作は「シャープパワー」と呼ばれる。しかし、われわれが欧米の人権NGOを支援すれば、それは中国からすると欧米によるシャープパワーの脅威となる。

工作活動の実態解明を

オーストラリアやニュージーランドにおける中国の工作活動の実態とその教訓は。

 オーストラリアやニュージーランドは、中国の干渉、影響工作が比較的大規模に行われた。中国が与野党の議員に資金を提供していた事実は、民主主義の脆弱(ぜいじゃく)性を示したと言える。こうした事態を受けて、両国では法律を改正した。

 大切なことは、調査によって金銭の流れを理解し、法整備することだ。それとともに民主主義国家の国民が、中国はわれわれとは異なる権威主義の国家であるということに警戒心を持つことが大切だ。

中国の対外工作に対して米国で警戒感が高まった理由は何か。

 まず、中国が近年、全体主義的な傾向を強めていることがある。それによって中国の対外活動についても注目を集めるようになった。オーストラリアやニュージーランドの事例も議論を喚起させた。

対抗策として何が有効か。

 スパイ行為であればカウンターインテリジェンスの強化、贈賄の場合は法律を整備することや金銭の流れを追跡することだ。

 他には、シンクタンクや大学の研究者、ジャーナリストらが協力して中国共産党による工作活動の実態を明らかにすることや、欧米メディアが中国政府系メディアから広告費を受け取らないという行動規範を定めることを勧めている。

 大切なのは、中国系の住民がこうした取り組みによって圧力を感じないようにしないといけない。私は昨年、中国の影響工作についての報告書をまとめたが、中国共産党は中国人に対する人種差別だと言ってきた。これに対し、私は中国共産党とその影響工作について述べているのであって、中国全体や中国の文化を批判しているわけではないと言っている。このようにしっかり特定しないと、逆に中国共産党の術中にはまることになる。

(聞き手=ワシントン・山崎洋介)