勝負決めるのは「思想戦」

米中新冷戦 第3部 識者インタビュー (19)

米世界政治研究所所長 ジョン・レンチャウスキー氏

これまでの米国の対中政策をどう見る。

ジョン・レンチャウスキー氏

 ジョン・レンチャウスキー氏 レーガン米政権時代に国家安全保障会議(NSC)欧州・ソ連部長などを務め、ソ連を崩壊に導く冷戦戦略の策定・実行に貢献。1990年、ワシントンに安全保障、国際問題の大学院「世界政治研究所」を設立した。

 1970年代初めにニクソン大統領とキッシンジャー大統領補佐官が中国に扉を開いたのは、冷戦で中国を米国側につけてソ連とさらに敵対させる戦略的画策だった。これはもっともな政策に見えるが、米国と西側諸国にモラルの混乱を引き起こしてしまった。ソ連を悪い共産主義、中国を良い共産主義に区別したからだ。共産主義はすべてが悪であり、これは戦略的大失敗だった。

 米国は中国を教育して国際社会の善良な市民に変えようと、関与政策を続けてきた。だが、共産主義体制は異なるDNAを持つ。教育してもその本質を変えることはできない。数十年に及ぶ関与政策は結局、中国を大国にしてしまった。

 中国は今、米国や自由世界に対し冷戦をしている。中国を支援し続けてきた米国がなぜ、中国から主要な敵と見なされるのか。中国の本質がそうだからだ。

ソ連を「悪の帝国」と見なしたレーガン政権内には、中国への警戒感はなかったのか。

 私はレーガン政権にいたが、私を含め共産党独裁体制に反対する者は多くいた。一方で中国への関与を支持する勢力があった。対中政策をめぐり、政権内に対立があったが、これに直接関わっていなかった私の主張は届かなかった。

中国の共産党一党独裁体制は変わらないか。

 冷戦時代、ソ連は世界の戦略環境の中でずっと存続するという見方と、人間の本質に反する共産主義システムは、多くの内部矛盾を抱え、長くは存続できないという二つの見方があった。私は後者の立場だった。

 1983年にグレナダの共産主義政権を打倒したのが、共産主義体制が変わった史上初めての例で、それまではいったん共産化したらその体制は不変に近かった。それでも私は、ソ連の体制に変化をもたらそうと取り組んだ。その例が、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)やラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティ(RFE/RL)を強化し、ソ連や東欧の人々に情報を提供することだった。これは人々が体制に立ち向かうインセンティブになった。

 中国の人々にも現代のデジタル技術を使って真実を伝える必要がある。真実こそ最も重要な武器だ。そして中国で抑圧される人々と連携する必要がある。彼らは孤独ではなく、外部に仲間がいることを伝える必要がある。自由を求める彼らが政治変革の唯一の希望だからだ。

 中国はソ連と同じように、体制に抵抗することは無益だという心理状態に人々を置いている。中国の人々を絶望の心理状態から解放し、体制に圧力をかけなければならない。

 勝負を決めるのは広報外交、政治・イデオロギー戦だ。軍事的圧力や経済的圧力も重要だが、最終的には中国の人々が自分たちの足で立ち上がり、人間の尊厳を取り戻せるように後押ししなければならない。

トランプ政権のイデオロギー戦に対する取り組みは十分か。

 まだだ。現時点で原動力になっているのは、貿易不均衡や技術窃盗などを正すことだ。それは理解できる。実際にはイデオロギー戦はまだ始まっていない。トランプ政権内にはイデオロギー戦の重要性を理解する人々がおり、進めていく必要がある。

(聞き手=編集委員・早川俊行)