中国に「宣戦布告」した米
拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷司氏
米中新冷戦は、どの程度続くことになるのか。
短期で終わると思う。昨年10月4日のペンス米副大統領の演説は「現在版ハル・ノート」だった。米国とすれば、世界の覇権は中国に渡さないという「対中宣戦布告」の意思表示だった。
最終目標は政権崩壊か。
そう思う。実弾は伴わないが、経済の水を抜く。もともと経済は悪いが、さらにダメージを与えて今の政権を潰(つぶ)そうとしている。
独裁国家の場合、経済が崩壊すると政治崩壊を伴ってくる。とりわけ中国の場合、共産主義を棚上げし、経済的繁栄を共産党政権の求心力に据えており、経済的ダメージは政治的ダメージに直結する。
その経済を見る上で、いわゆる「李克強3指標」(李克強首相が地方から報告される上乗せされた経済データを見破るための経済指標)がある。これは、銀行の貸付残高と輸送量、エネルギー消費量の三つだ。このうち、輸送量(貿易)とエネルギー消費量(電力)が落ち込んでいる。
唯一、銀行の貸付残高が右肩上がりだ。これは単に輪転機で人民元を刷って、市場に放出しているだけだ。通常、お金を刷って市場に流せばインフレになる。そうならないのは、党の幹部たちが人民元を海外に持ち出しているからだ。
中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)問題など、技術覇権戦争の感を強くさせるが、米国は新冷戦に勝てるのか。
勝てる。中国最大の問題は、創造性の欠落だからだ。
そこまで断言できるものなのか。
中国が勝てる可能性は皆無だ。もちろん、優秀な人材はごく一部存在する。だが、カネと政治に翻弄(ほんろう)されているのが現実だ。
戦後、中国人で自然科学系のノーベル賞受賞者は1人しかいない。あれだけの人口大国なのにだ。理由はすぐ金儲(もう)けに走るからだ。アカデミズムは、拝金主義からは生まれない。
カナダでファーウェイの孟晩舟副会長が拘束されたのが昨年12月1日だが、その同じ日に、中国系米国人の物理学者、張首晟氏が飛び降り自殺をした。その直前、米連邦捜査局(FBI)が彼の実験室で事情聴取を行っている。
上海生まれの張氏は、15歳で復旦大学に入学し、弱冠30歳で米名門スタンフォード大学の教授に就任した天才だ。その張氏は2009年、中国系科学者を結集する北京プロジェクト「千人計画」の一人に選ばれた。
そして張氏は、中国国有企業の中関村発展集団と組み丹華資本(ベンチャー・キャピタル)を創設し、代表は張氏の助手、谷安佳氏が就任した。張氏は顧問的な立場で、要は金儲けに走っていた。
その丹華資本は「中国製造2025」の柱となるAI(人工知能)、ビッグデータ、ブロックチェーンなどへの投資を行い、丹華資本と華為が複雑な関係で結ばれていたことが判明している。FBIは、その詳細の詰めに入っている。
だから、張氏は自殺するしかなかったのではないか。それとも口封じに遭った可能性も否定できない。
なお、米国は次世代通信規格「5G」に関し、中国に絶対、主導権を渡さない意向だ。これは米議会の中でも、コンセンサスになっている。
(聞き手=編集委員・池永達夫)
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