人類の進歩妨げる知財窃盗

米中新冷戦 第3部 識者インタビュー (17)

米ヘリテージ財団特別客員研究員 スティーブン・ムーア氏

トランプ米大統領の中国貿易問題への対応をどう見る。

スティーブン・ムーア氏

 スティーブン・ムーア氏 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル論説委員、保守系有力シンクタンクのヘリテージ財団チーフエコノミストなどを歴任。2016年大統領選ではトランプ氏の経済顧問を務めた。近著にトランプ氏の経済政策を解説した『トランポノミクス』がある。

 米国は長年、中国を途上国として扱い、米国の市場を開放して、経済・政治の自由化に向かわせようとしてきた。中国が経済大国となった今も、極めて不公平な貿易慣行を続けるのを許すわけにはいかない。

 米中関係を変える必要があり、私はトランプ氏の主張に完全に同意する。これは現代の米中の戦いだ。日本を抜いて世界第2位の経済大国となった中国は、米国も追い抜こうとしている。経済覇権を懸けた競争であり、戦いだ。

 中国は軍事力も増強している。この分野でもますます攻撃的、危険になっている。経済だけでなく、安全保障も懸かっている。

関税を引き上げるトランプ氏のやり方は効果的か。

 関税はレバレッジ(てこ)を得るための交渉戦術だ。不動産取引の交渉を続けてきたトランプ氏は、交渉の仕方を知っている。

 どの国も米国の消費者市場へのアクセスを求めている。特に中国は米国に製品を売れなければ、経済成長できない。多くの製品に25%の高関税が課されたら、中国経済に深刻なダメージが及ぶだろう。

 現在、米経済は非常に力強いが、中国経済は弱い。この状況は米国に競争上の優位をもたらしている。中国にけんかを売るなら、今が好機だと多くの人が感じている。

 (米中の関税合戦は)いわば2台の車が互いに突進し、どちらかがハンドルを切らなければ衝突するチキンゲームだ。米国が運転しているのは巨大トラックだが、中国はそうではない。

トランプ政権は中国による知的財産権の侵害を厳しく非難している。

 重大な問題だ。知的財産の窃盗は、イノベーションのプロセス全体を損ねる。新製品を開発しても、誰かに知的財産を盗まれてお金をもらえないとすれば、一体誰が開発に取り組むのか。

 イノベーションは人類の進歩を促し、生活水準を引き上げる。だが、中国がしていることは、自国民を含め、すべての人を貧しくするものだ。がんの新薬が数億人の命を救う可能性があっても、それでお金を稼げなければ、誰も開発しようとしない。イノベーションと人類の進歩を遅らせることをしてはならない。

中国は人工知能(AI)や次世代通信規格「5G」、バイオテクノロジー、ロボティクスなど最先端産業で支配的地位を狙っている。

 私は、米国がこれらの産業をリードし続けると思っている。その理由は、米国には他の国々にはないものがあるからだ。米国には(先端産業が集積する)シリコンバレーやボストンがある。世界最高の大学もある。これらの場所には、世界中から移民が集まってくる。

 中国の問題点は、政府がどの分野に投資すべきかを決めていることだ。米国のように投資家と起業家が連携し、画期的なものを生み出していくやり方のほうがいい。

 AIなどの開発競争について、私はあまり心配していない。北京とシリコンバレー、どちらに賭けるかと言われたら、私はシリコンバレーに賭ける。

(聞き手=編集委員・早川俊行)