科学強国・中国は人類の悪夢

米中新冷戦 第3部 識者インタビュー (24)

評論家 黄文雄氏

米中関係は、これから新冷戦時代を迎えることになるのか。

黄文雄氏

 こう・ぶんゆう氏 1938年、台湾生まれ。早稲田大学卒。文明史・経済史研究者にして哲学者。専攻は西洋経済史。拓殖大学日本文化研究所客員教授。世界戦略総合研究所評議員。

 冷戦という言葉は、的確ではない。米中は互角のパワーを所持しているわけではないからだ。米国の力は圧倒的だ。

ということは、米中の確執は早い段階で決着がつくのか。

 そうだ。私は今年中にも決着がつくと思っている。

中国の弱点は何か。

 資源不足が中国の足かせになっている。食料も石油も世界から輸入しないと、国民は飢えてしまうし、エネルギー源にも事欠く。

 貿易によってその不足を補う必要があるが、貿易に頼る構造には弱点がある。ベネチアやカルタゴといった重商国家のリスクは、相手国次第で輸入の道が閉ざされることにあった。

 ユーラシア大陸を版図にしたモンゴル帝国も、イスラムが海を支配していたため、経済封鎖に弱い体質を克服できなかった。

中国は改革開放で農業国家から産業国家への転身を図った。その中国が「製造強国」を次の目標に設定している。

 科学やハイテク分野で、中国の躍進が伝えられている。中国は昨年末、人類史上初となる月の裏側への探査機着陸を成功させた。国家戦略「中国製造2025」の下、その科学技術力の拡充に余念がない。中国の科学強国化は人類の悪夢だ。

 全国に防犯カメラを配置し、一瞬にして人物を認識できる人工知能(AI)を使った顔認証システムで、大勢の人民の中から犯罪者を探し出して逮捕したこともあった。こうしたビッグデータやAIを活用した社会管理システムが、中国では加速度的に構築されつつある。

 デジタル技術を利用して社会を統制する「デジタル・レーニン主義」に中国は大きく舵(かじ)を切っている。ハイテクを利用した人民監視は、思想や情報の統制もしやすく、習近平の独裁体制強化にもつながる。もし中国が最先端科学でリードしたときには、科学技術の発達が独裁と民衆弾圧を加速させる道具になる危険性がある。

米中の軋轢(あつれき)の焦点は技術だ。

 中国の科学技術は、先進国から盗み、コピーしてきたものだ。海外の企業が中国に進出する際に技術移転を強要されたり、企業内部に中国共産党の支部設置が義務付けられたりしてきた。中国側が主導権を握り、海外の技術を自家薬籠中のものとするためだ。

 また近年は、国のカネと力を背景とする国営企業を使って海外企業を買収し、技術を根こそぎ自国のものにしてきた経緯もある。

 米国はこうした中国のやり方を「知的財産の窃盗」だと批判し、中国に対し貿易戦争を仕掛けている。先進国企業の技術をパクり、国家を後ろ盾とする国営企業がその技術を駆使した製品を廉価で海外に売り込み市場を広げている。技術開発費も掛かっておらず、極めて安価で売り出せるため、国際競争力は高いのだ。

 それこそ先進国は踏んだり蹴ったりで、たまったものではない。巨大市場・中国という疑似餌にだまされて、釣り上げられた魚のようなものだ。

(聞き手=編集委員・池永達夫)