貿易戦争で追い込まれる習氏

米中新冷戦 第3部 識者インタビュー (20)

評論家 石平氏(上)

米国にこれまでの対中関与政策を放棄させた背景は何か。

石平氏

 せき・へい氏 1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年に来日し、神戸大学大学院博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。2007年、日本国籍取得。

 習近平国家主席の独裁化だ。胡錦濤政権時代は、ある程度、国内の批判も容認した。しかし、習近平政権では毛沢東時代のような独裁政権に戻した。しかも個人独裁で先祖返りの格好だ。

 もう一つは、習近平政権が米国をアジアから追い出す姿勢を明確にしたことだ。中国は2014年に「アジア安全保障観」を打ち出し、「アジアの安全保障はアジア人自身が担うべきだ」とした。これは、米国は米軍基地を含めアジアから出て行けということを意味する。これを米国は許せるわけがない。

 米国の基本的戦略は、他国がアジアを支配すれば潰(つぶ)すというものだ。戦前からそうで、満州を取った大日本帝国もそれで潰され、朝鮮戦争やベトナム戦争の後ろで糸を引いていたソ連も潰された。次は中国だ。

 そういう意味では、習氏は米国に中国潰しの決意をさせた。

トランプ大統領が仕掛けた「米中新冷戦」の最終ゴールは、共産党政権崩壊だろうか。

 おそらくトランプ大統領の腹の内はそうだろう。ただ、彼の差し迫った課題は、大統領再選だ。レーガン大統領も2期8年で、ソ連を潰すことができた。これからの2年間、対中圧力をかけ続けて実利を取り、再選の追い風にしたい思惑がある。

 だから、中国の急所を握った米国は、今まで中国がやってきたことを一つ一つ止めている。知的財産の侵害や技術強制移転、国有企業への優遇などだ。そういったことを全部、やめさせる。その意味では、習氏は今後2年間、トランプ氏のいいカモになる。

 米中の立場は既に平等ではなく、中国にとっては「城下の盟」だ。屈辱的だけれど、習氏とすれば呑(の)まざるを得ない。貿易戦争で習氏は、そこまで追い詰められている。

 しかし、再選したらトランプ氏もレーガン氏になりたいと思うだろう。レーガン氏はソ連を潰したから、偉大な大統領になった。トランプは別にお金のために大統領をやっているわけではない。お金は腐るほどある。お金に飢えている人を大統領にしたら、大統領としての仕事は期待できない。

日本に問われてくるものは。

 シンガポールのリー・シェンロン首相は最近、「われわれアジアは米国に付くか、中国に付くか、いずれ選ばないといけないかもしれない」と述べた。名言だと思う。あの親子には戦略観があるが、日本に欠落しているのは大局観だ。

 中国の「一帯一路」構想に日本が今、関わったら「百害あって一利なし」だ。米国は共産党政権は潰せなくても、一帯一路は潰す。その中で、日本企業が一帯一路に関われば、墓穴を掘るだけだ。

 米議会は昨年末、「チベット相互入国法」を通した。これは、中国当局が米政府高官、報道関係者などの米国民のチベット立ち入りを禁止した場合、中国当局者の訪米を拒否すると定めたものだ。

 米中関係の潮目は変わった。日本もチベット関連法を作るべきだ。保守政治の真価がこれから問われることになる。

(聞き手=編集委員・池永達夫)