安倍首相に改憲実現を期待

ペマ・ギャルポ5拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ・ギャルポ

インド太平洋構想推進も
安易な対中関係改善は避けよ

 安倍晋三首相は9月20日の自民党総裁選で大方の予想通り3選を勝ち取った。しかも議員票では80%、党員票でも55%という得票率で、過去2期間の総裁としての活躍が十分に評価されていたことが証明された。安倍総裁の勝利は同時に首相としても継続的に日本をリードする総理大臣のポストを勝ち取ったという意味がある。

 その意味でこのたびの勝利は日本国のみならず、特定の国を除いてアジアの人々からも歓迎されている。その理由は安倍総裁が日本国の首相として今まで行ったことを評価し、今後行おうとしていることに大きな期待を掛けているからである。

 私はここで安倍首相に三つのことをぜひとも実行していただきたいと考えている。第一に憲法改正である。今が改憲の絶好のチャンスであり、この先そう簡単に今のような憲法改正のための好環境は訪れないからである。なぜならば国会で3分の2以上の多数を占める与党が今後ずっと継続するという保証はない。自民党の立党以来の公約を実現するための決断力と指導力を持ったリーダーも、そうたくさんいるわけではない。

 日本が独立国家として現在の国際環境の中で責任ある役割を果たすためには現憲法の見直しは必然的であり、日本を日本自ら自由で独立した国家にするためにも、今の憲法による手かせ、足かせを取り外すことは最も現実的なことである。

 評論家の中には、参議院選挙前は連立政権のパートナーである公明党が簡単に憲法改正に応じないだろうなどの理由で、参院選前の改憲を先伸ばしすべきだというような意見を口にする人もいる。だが、これは意図的に改憲阻止をもくろんだ見解であり、そのような意見は無視し、今のチャンスを逃さず、むしろ国会で法案が通過した後、国民投票に向けて、万全な対策を一刻も早く講じる必要があると思う。偏向したマスメディアによってつくられた世論に振り回されることなく、むしろリーダーとして積極的に国民と共に世論形成に努めていただきたい。

 第二に教育改革に関する抜本的な見直しが必要であるように思う。今の日本のさまざまな事件や事故を見ると、倫理道徳の欠如がその根底にあるように感じる。科学技術の発展とそのための教育はもちろん重要であるが、そこに精神的道徳的価値観がなければ、バイオテクノロジーや人工知能(AI)がいくら発達しても、逆にとんでもない怪物を作り出したり、大事件や大事故につながるような破壊的な事象が発生したりする可能性が高くなる。これらの科学技術を人類の繁栄と発展のために使うには、現段階ではまだ人間が操作できる範囲は広いが、今後AIとバイオテクノロジーの発展と並列して精神的な面における哲学、倫理学、宗教学の教育も進めるべきであろう。

 三つ目としては国際平和と安全保障に関して安倍総理の英知から生まれた、「自由で開かれたインド太平洋構想」を幻で終わらせるのではなく、その具現化に指導力を発揮していただきたい。現状を見ると、後でその構想に同調したトランプ氏のアメリカの方が具体化については本気で動き出しているように思う。アメリカの軍編成などにおいても、太平洋軍をインド太平洋軍に名称変更している。またインドとの軍事外交面において積極的な関わりを持つことで、インド太平洋構築に真剣さを示している。

 日本の外務省や一部の言論人は、この構想に対して反対こそしないが、積極的な姿勢は示していない。アジア全体の真の平和と発展のために首相のリーダーシップを示してほしい。

 最後に、実行してほしくないことに関して簡単に述べたい。近々安倍首相が中国を訪問し、また来年早々、習近平主席を日本に招く話がある。もちろん隣国同士が良い関係を構築し、できれば摩擦を回避することは決して悪いことではない。しかし、こちらが善人であるから相手も善人であるという前提で報道することは必ずしも良いとは言えない。特にその国が日本や他の国々にどのように接してきたか、今までの経緯を考慮する必要がある。

 中国は現在、「一帯一路」構想が行き詰まり、またアメリカのトランプ大統領の制裁関税などの要因で経済成長が鈍っており、日本のメディアなどが報道する以上に経済的に苦境に陥っている。その打開策として中国は日中国交40周年を口実に、再び低姿勢で友好的な態度を示し、日本から資金を搾り取る魂胆である。

 中国によって毒されている経済人やマスコミは、米中関係の悪化している現在こそ漁夫の利を得て中国と関係改善し、中国にある3万2000社の日本企業を救済すべきだなどと主張している。しかしこれは自分の首を絞めるためのロープを相手に貸すようなものである。よって簡単に北京政府に対し助け船を出すことは避けるべきである。