独裁国家・中国、世界制覇の危険性認識せよ
東京福祉大学国際交流センター長 遠藤誉氏
今年、注目されるのは米中関係だが、米大統領就任式後、中国が仕掛けてくるシナリオをどう読むのか。

えんどう・ほまれ 1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。『卡子(チャーズ) 出口なき大地』『チャイナ・セブン』など著書多数。
米中は厳しい緊張関係に入るだろう。シナリオは中国が仕掛けるのではなく、むしろトランプ氏が昨年12月に台湾の蔡英文総統と電話会談をしたことと、「一つの中国」に必ずしも縛られるものではないという発言に対して、中国がどう対応してくるかである。
これらは中国にとっての最高ランクの核心的利益なので、一歩たりとも譲らないだろう。事実、習近平国家主席は12月31日に行った「2017年新年の祝賀」において、「領土主権や海洋権益は断固として守る。この問題で誰かが言い掛かりを付けても、中国人民は絶対に受け入れない」と述べている。
またトランプ発言を受けて中国は昨年末、中国海軍空母「遼寧」の渤海湾での軍事演習を終えた後、西太平洋に向けて航行させ、初めて台湾を囲むバシー海峡を通って南シナ海に入った。米国への抗議行動である。
能力や爪を隠す韜光養晦(とうこうようかい)路線を捨てた中国の台頭を牽制(けんせい)し、東アジアの平和を担保するために日本が気を付けるべきことは何か。
トランプ氏による「一つの中国」懐疑論発言を受けて、日本の外務省は台湾と日本の窓口「交流協会」の名称を今年1月1日、「日本台湾交流協会」に改称した。1972年の日中国交正常化以来、初めてのことである。
中国の顔色ばかり窺(うかが)ってきた外務省としては画期的な出来事だ。このように、トランプ発言によって、今年は「中国共産党政権の正統性」に焦点が当たる年となるだろう。
それは自(おの)ずと、拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』に描いた「日中戦争時代、毛沢東率いる中国共産党軍は日本軍とあまり戦わず、日本軍との間に部分的停戦をさえ申し出ていた事実」を正視することを世界に要求することとなる。
ただ日本政府にも日本メディアにも、「真実を見る勇気」はなく、中国の顔色ばかりを見ている。日中戦争への贖罪(しょくざい)と中国による洗脳が招いた結果だろうが、二度と戦争は起こさないという決意の下、真実を堂々と直視する勇気を日本は持つべきだろう。
中国の「一帯一路」やAIIB(アジアインフラ投資銀行)の真の狙いは何か。
一帯一路(陸と海の新シルクロード)構想は、中国内の生産過剰製品を吐き出すためのツールであると同時に、提携を結んだ地点の安全保障を担保する役割を果たす。中国より西側のほぼすべての領域を網羅する。
AIIBは、人民元国際化により中国が国際金融の中心となっていくことが狙いだ。
トランプ氏のTPP(環太平洋連携協定)撤退宣言により、中国が主導するRCEP(東アジア地域包括的経済連携)が強くなり、貿易ルールが中国によって描かれていくことになる。それを阻止するのがトランプ氏の「一つの中国」懐疑論である。中国は中国共産党の真相を隠蔽(いんぺい)するために言論弾圧を強化しているが、そのような独裁国家が世界を制覇していくことの危険性を日本は認識すべきだ。トランプ政権が、それを可能にするだろう。
(聞き手=池永達夫)





