トランプ外交、中東政策再構築へ対露接近
米ジョージ・メイソン大学教授 コリン・デュエック氏(上)
トランプ次期米大統領の外交政策は、オバマ大統領と比べどう変わるか。
オバマ氏は内政目標の実現を優先するため、海外における米軍プレゼンスの「退却」と国際的な対立関係の「譲歩」を外交戦略の柱にしてきた。
トランプ氏が「譲歩」のトレンドを反転させることは確かだ。例えば、トランプ氏はイランに極めて批判的で、核合意は米国よりもイランにはるかに有利な内容だと考えている。キューバとの合意も同様だ。中国に対してもオバマ氏より譲歩しないと予想される。
一方、「退却」は完全には反転されないだろう。なぜなら、トランプ氏は大統領選で「米国の国家建設」を優先すると主張していたからだ。興味深いことに、オバマ氏も同じことを言っていた。
世論のムードは、海外での人道的介入や終わりなき軍事的冒険を支持していない。オバマ氏もトランプ氏も、国民が15年間に及ぶイラク・アフガニスタン戦争に疲れた現実を反映している。
トランプ氏とオバマ氏には、共通性があるということか。
共に内政の優先課題に重きを置いているという意味で継続性がある。オバマ氏はリベラル・進歩的な政策を推し進めたのに対し、トランプ氏は保守・右寄りだ。トランプ氏は減税や規制緩和を通じ経済再生を進める一方で、インフラ支出も増やすだろう。これは共和党の保守派としては極めて型破りだ。
トランプ氏は過激派組織「イスラム国」(IS)とどう戦うか。
トランプ氏はテロ対策で極めて強硬な立場を示しており、ISに対しても強硬姿勢で打倒を目指すと予想される。空爆や特殊作戦、諜報(ちょうほう)などを強化するシナリオが考えられる。
一方で、トランプ氏は米国が中東で国家建設に取り組むことに反対しており、イラク、シリアへの大規模な地上部隊の派遣は望まないかもしれない。その選択肢は残しておくが。
つまり、トランプ氏はテロに断固とした対応を取るが、これは必ずしも中東での大規模な軍事介入を意味しない。トランプ氏はだらだらと長引く、重要度の低い軍事介入を減らしたいと考えている。海外での軍事力行使をより経済的、効果的にできるかが、トランプ氏の重要テーマだ。
トランプ氏はロシアにどのようなアプローチを取るか。
トランプ氏はIS対策での協力など、中東やその他の地域における米国の政策を再構築するため、ロシアに歩み寄る意向を明確にしている。
米国はシリアなどで幾つもの口約束をしているが、これらの約束は互いに矛盾し合っており、実際には何一つ果たしていない。トランプ氏は、困難な決断を下し、トレードオフ(何かを実現するために別の何かを犠牲にすること)を受け入れる時だ、ロシアは問題解決の一端となり得る、そう考えているのだろう。
大きな疑問は、ロシアと具体的にどのような合意をするかだ。すべての人がその答えに注目している。いずれにせよ、シリアなど米国を悩ませる問題を解決するために、トランプ氏がロシアに接近しようとしていることは確かだ。
(聞き手=ワシントン・早川俊行)