米中関係、本格的な対決の時代に

評論家 石 平氏(上)

トランプ氏は20日に米大統領に就任する。トランプ政権下の米中関係はどうなるのか。

石 平

 せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍取得。

 本格的な対決の時代に入るのではないか。当選以後、トランプ氏の一連の行動や言動を見ると、本気で戦おうとしている相手は中国だと分かる。

 例えば、当選の翌日、安倍晋三首相と電話会談して同盟関係を強化した。その会談で面会も決めた。その同じ日、韓国の朴槿恵大統領とも会談し、同盟国との足場を固めている。次にロシア大統領や比大統領とも電話会談して、悪化していた関係の修復に動いた。

 一連の動きをみると、結構、布石を打っている。対露、比関係も対中カードとして認識しているからで、戦略的狙いがある。ただの暴言王ではない。

 新国務長官は、親ロシアのパイプになり、国防長官は保守派の軍人を据えた。そうした布石を打った後、いきなり台湾カードを切った。中国とすれば台湾問題は絶対、触られたくない核心的問題だ。

 蔡英文総統と電話会談したのは12月2日。これはトランプ氏の単なる思いつきといった次元の問題ではない。その意味ではトランプ氏は確信犯だ。

 中国とすれば、いきなり急所の本丸を攻められた。しかし、それも外堀を埋める布石を打っていた。台湾問題を持ち出したことで、トランプ氏はすでに戦略的には高いポジションを手にしたことになる。中国は反発するが、トランプ氏はびくともしない。むしろ、逆に南シナ海問題を持ち出し貿易問題を持ち出す。

 結局、トランプ氏はキッシンジャー氏が作った米中の枠組みを一回壊し自分が米中の新しい枠組みを作る腹積もりだ。習氏はオバマ大統領に対し、新大国関係を言ってきたが、逆にトランプ氏こそ、中国に新大国関係を迫っていく格好だ。

南シナ海はどうなる。

 米国はやる気満々だ。

 全面対決ならば中国は大変な犠牲を強いられることになる。中国はまだその戦略ができていない。

 ただ中国とすれば、米国と南シナ海でガチンコ対決するより、東シナ海に力を振り向けるだろう。

 米国が台湾問題を持ち出すなら、中国は尖閣問題で動き、日米同盟に圧力をかける。

中国人漁民の尖閣上陸もありうる?

 いきなり人民解放軍が上陸ということはないが、偽装漁民の上陸はありうる。それでトランプ政権の本気度をテストする。

 ただ尖閣だけでなく台湾もそうだが、中国が簡単に手が出せないのは、沖縄に米軍のプレゼンスがあるからだ。この米軍基地が縮小、もしくは撤退となれば、がらりとパワーバランスが崩れる。

中国が戦争を仕掛けてくる可能性は?

 基本的に中国は戦争への敷居が低い。

 無論、米が出てくれば中国は負ける。そうなれば共産党政権は終わりだ。もし米が出てこないという判断が成立した時、中国共産党は戦争に走る可能性がある。

 戦時経済にもっていけば、いろいろコントロールしやすくなる。民衆の不満も海外に向けられる。そうしたことから軍事的冒険主義に出てこないとも限らない。

(聞き手=池永達夫)