習政権の実態は習王政権

評論家 石 平氏(下)

1年前のインタビューでは、最後に笑うのは胡錦濤氏という話だった。反腐敗をてこにした権力闘争で、習近平総書記の江沢民派一掃に手を貸した胡氏が政治の主導権を握るというシナリオだったが、現状はどうか。

石 平

 せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍取得。

 両派は妥協の方向に進んでいる。国内、国際情勢とも血で血を洗うような内部の権力闘争を許さない状況下にあり、徹底的に戦って決裂というより、妥協によって両派の力が温存される線が濃厚だ。それがなければ、決定的な大戦争になる。習氏に勝ち目があるわけでもない。

妥協となると、李克強氏が首相の座から落ちることもない?

いや、妥協の一つのやり方として、今年の党大会を終えた後、来年3月の全国人民代表大会で、李氏が首相を辞め、全人代の常任委員会委員長になる可能性がある。

 新首相には李氏と同じ共産主義青年同盟(団派)の王洋氏がなる可能性がある。習氏が主催した昨年秋の主要20カ国・地域(G20)首脳会議では、王氏が習氏と一緒に会議に出席したり、オバマ米大統領との会談でも王氏が同席した。

 そもそも健康上の問題を抱えている李氏にしてみれば、5年間、首相を務めて、全国人民代表大会の委員長に就任すれば、一丁上がりだ。常務委員にとどまったまま、地位が上がり格も上になるし、何より桎梏(しっこく)状態にある経済の責任から逃れられる。

 ただ、中国の最高意思決定機関である政治局常務委員会については二つの可能性がある。

 今年の党大会で常務委員は、江沢民氏の息のかかった人間がほとんど消える。そうなると、習氏の側近の王岐山氏はおそらく残留する。

 王氏は69歳だが、68歳定年制というのは公式なルールではない。そもそも王氏がいなければ、習政権は成り立たない。党内で中央規律検査委員会のトップとして反腐敗運動の陣頭指揮を執り、党内を締め付けて習政権を支えているのは王氏だ。

 そういう意味では、習政権の実態は習王政権ともいえる。

習政権は反腐敗路線を維持していく?

 反腐敗の旗印は維持し続けながら、団派と妥協する。それが一つの可能性だ。

 もう一つあるのは、政治局常務委員制度そのものが廃止される可能性がある。昔の主席制度に戻る。主席の下に何人かの副主席を置く。その副主席を団派から出す。李氏や次の首相が入る。ポストは別として権力構造的に言えば妥協になる。

 というのも昨年10月の6中全会(中央委員会第6回全体会議)で、習は「核心」としても地位を確立した。しかし、一方で6中全会ではコミュニケで集団的指導体制も強調。いわば両論併記みたいな妥協の産物だった。結局、習氏は「核心」という称号は得たものの、権力の「核心」は手に入れていない。

 団派としても首相ポストを確保できる。さらに、胡春華氏が常務委員になる可能性がある。彼がなれば、実質的に習氏の後継者になる。今後の権力闘争の焦点は、習氏の後継者を決めるかどうかだ。