北朝鮮の非核化、米の中国圧迫カードが鍵

2017激動の世界を読む(7)

元韓国青瓦台外交安保首席秘書官 千英宇氏(下)

金正恩体制は中長期化するだろうか。

千英宇

 カギを握るのは米次期大統領のトランプ氏が、北朝鮮の非核化のためにどのくらい多くのカードを動員するかだ。中国圧迫カードを切れるかが重要だ。

 例えば、中国の対北政策を変更させるために台湾カードは有効だ。「一つの中国」にトランプ氏が異議を訴えているが、これを北非核化の先頭に中国を立たせるためにのみ使ったとしたら中国の対北政策は変わるだろう。北が崩壊する恨みが残ったとしても、米国が主張する方向に中国の政策が変わる可能性がある。そうなったら金正恩氏としては大きな危機だ。核放棄か引き続き核武装かの岐路に立たされることになる。

 その時、仮に正恩氏が核武装を続ける決断をした場合、体制を動揺させるほどの制裁を中国と米国から科せられるだろう。北と取引する全ての中国企業も制裁対象となる。中国としては北を生かしたくても自分たちが生き残るためにはさらに強力な対北制裁を加えざるを得ない。

そうなれば金正恩体制にとって最大の危機を迎えるだろうが、北はそのまま黙って崩壊するだろうか。

 北にとって危機回避の唯一の希望は韓国の次期大統領選で金正恩氏を生かす政治勢力が権力を握ることだ。金正恩体制に同情的、好意的な政権が韓国で5年間続けば、中国の対北制裁が厳しくなっても忍耐する力を得られる。米韓同盟がぎくしゃくし、北は南北関係に活路を見いだすだろう。核と経済の並進路線を継続させる糸口も南北関係で見つけるだろう。

 だが、韓国の次期政権が北に強硬路線を取り、米次期政権が台湾カードなどを持ち出して中国を圧迫するなら正恩氏は核放棄しなければ体制が動揺する危機に直面する可能性がある。

国連安保理決議による対北制裁の度合いも強まっているが。

 安保理制裁だけで北を非核化に向かわせることはできない。核放棄の決断をさせるほどの制裁には程遠い。安保理制裁は北の対外経済活動の10%程度しか制裁できないのが現実だ。北が少し不便に感じるだけで、核開発を続けるのに何ら支障はない。

 北に戦略的判断を変更させられる制裁は結局、民需用、軍需用の別なく北の全ての公企業との取引を全面中断する全方位的な封鎖しかない。

昨年、北朝鮮は核実験を2回強行した上、弾道ミサイルも多数発射した。狙いはトランプ新政権との交渉か。

 それよりも制裁がさらに強化される前に早く核開発の目標、つまり核をミサイルに搭載できるほどに小型化させる技術的目標の達成を急いでいるということだろう。運搬手段としての弾道ミサイル技術もしかりだ。技術的目標に達したら制裁を解除させるために交渉に乗り出してくるだろう。

 核実験はこれまで5回実施しており、小型化はほぼ達成されつつある可能性があるが、弾道ミサイルの場合は、1~2㌧の弾頭を長距離飛ばすには今のエンジンでは限界がある。高出力の新型エンジンで核弾頭を運搬できるミサイル開発にこぎつけなければならないが、まだその段階には達していないようだ。

(聞き手=ソウル・上田勇実)