オバマ中東政策、同胞団をイスラム穏健派と誤認

アルアハラム政治戦略研究所研究員
モハメド・F・ファラハト氏(上)

オバマ米大統領の中東政策をどう評価する?

モハメド・ファイエズ・ファラハト

1992年カイロ大学政治経済科学学部学士号。アルアハラム政治戦略研究所研究員を経てアルアハラム財団事務局長。現在は事務局長を退き、研究に専念。2001年、同大学で修士号取得。韓国の対米外交、アフガニスタンと東南アジアのテロなどテーマに論文・記事。

 第一に、アラブの春運動を捉え、中東諸国の政権を変えようとした。リビアでカダフィ政権を打倒したが、同時にリビアの国家体制をも破壊。オバマ政権は国家再建のプログラムを持っていなかった。リビアには、多くの過激派、聖戦派戦闘員が現れ、中東全体に深い混乱と闘争をもたらしている。

 これは私の個人的意見だが、もしオバマ政権が、国家の破壊ではなく、政権の交代を最優先したなら、少なくとも国家は維持できたと思う。軍事行動をしないで政権交代を促す別の道を選べばよかったと思う。オバマ政権は、ブッシュ政権がイラクやアフガニスタンで経験した教訓を生かさなかった。シリア内戦はすでに5年を経たが、シリア政権を変えることもできないでいる。

米国は9・11同時テロ以来、政治解決より軍事行動が目立つようになった。IS(「イスラム国」)は米のイラク攻撃の副産物とも言える。

 オバマ政権の第二の問題点は、イスラム勢力に対する認識に誤りがあったことだ。彼らは、イスラム勢力を国際テロ組織アルカイダのような過激なグループとそれとは別の穏健なグループがあるとし、ムスリム同胞団を穏健なグループと見誤って、それを支持した。

 オバマ政権は、ムスリム同胞団の本質が過激なグループであり、エジプト政府を悩ませてきた経験を無視し、同胞団を支持したのだ。エジプトでモルシ同胞団政権が崩壊した後も同胞団を支持し続けたことが大きな問題だった。

 ムスリム同胞団は、リビアでもシリアでもイエメンでも大変強力に活動しているので、オバマ政権がムスリム同胞団を支持することは、結局各国の過激派を支援していることになるのだ。

 トランプ氏は、ムスリム同胞団と過激主義者との区別はしないと思う。彼は、ISやアルカイダなどの過激なグループに対し、より攻撃的だろうし、それをムスリム同胞団にも適用すると思う。

 もう一つの問題は、オバマ氏の湾岸諸国に対する考え方だ。われわれは、オバマ政権がイランと核合意したことは、オバマ政権が中東における成功例を必要としていたからだと理解している。オバマ政権は、イラクやシリアやリビアで多くの問題を抱えていたからだ。湾岸諸国はイランとの合意自体に反対ではなかった。しかし湾岸諸国との協力なしにイランと合意したことが問題だった。

イスラエルの猛反発も押し切っての合意だった。

 湾岸諸国は今、ショック状態にあると思う。米国と湾岸諸国との関係は、中東安定の要との考えを前提に成り立っていると思っていたが、米国がイランと核合意したことにより、この認識は正しくなかったことに気付いたのだ。今後どうなるかは、トランプ氏の政策にもよるだろう。トランプ氏はトランプ氏で、別の問題を持っている可能性がある。

 核合意後のイランは、あたかも、湾岸諸国に対する勝利者のようである。7年前すなわちアラブの春の前は、米国と中東との関係は非常に強かった。ロシアの中東に対する影響力は今日ほどではなかった。しかし今日のロシアはイランともシリアともイエメンとも極めて強い影響力を持っている。7年前と比較すると、米国の中東における影響力はとても弱まり、米国は中東における多くの戦略的立場を失ったと言える。一方、多くの国々が、ロシアや中国との関係を強め、ロシアと中国の影響力が拡大した。