北の金正恩体制、側近頼らず本人が判断

2017激動の世界を読む(6)

元韓国青瓦台外交安保首席秘書官 千英宇氏(上)

金正恩体制になって5年が経過した。権力をどの程度掌握したとみるか。

千英宇

 チョン・ヨンウ 1952年生まれ。慶尚南道密山出身。釜山大学卒後、外務省入り。2006年から08年まで北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の韓国首席代表。駐英大使、外務第2次官を経て李明博政権で青瓦台外交安保首席秘書官。13年から韓半島未来フォーラム理事長。

 正確な判断を下すのは難しいが、基本的に権力を確実に掌握し、体制は安定化しつつあるとみている。短期間に北の全権力機構を掌握し、一族支配体制に対する挑戦勢力を制圧したのは北にとって大きな成果だ。

西側諸国の予想とは違った。

 金正恩氏がまだ若く経験不足なので過小評価した。

ここまで権力を掌握できた理由は。

 若いが非常に果敢でカリスマもあり、大衆的人気取りにも長(た)けている。また権力核心部にいる人たちをコントロールするノウハウも持っている。父親に学んだのかは分からないが、あの年齢の指導者としては極めて稀(まれ)な能力を兼ね備えているようだ。

義理の叔父で事実上の後見人だった張成沢氏を処刑したことをどうみるか。

 自分の権力固め、挑戦勢力の排除のため、あそこまで無慈悲かつ果敢に行動するとは北の指導部も考えていなかったのではないか。そういう意味では内部も正恩氏を過小評価していた面があった。

 張氏は、自分が独自的な権力を行使するため権力の一部を形成しようと思った瞬間、彼の運命は決定したのだと思う。北のような唯一的支配体制の政治文化においてナンバー2は生き残ることができない。

 正恩氏がまだ若く、自分の方がよく知っているから、また親戚だからといっても正恩氏に忠誠を尽くす臣下として無条件忠誠を誓ってはじめて生き残れる体制だ。張氏処刑は今後の潜在的な挑戦勢力に対して断固たるメッセージになったはずだ。

金正日総書記に長年仕え、権力の怖さを知っていたはずだが。

 自分の思い通りに操れるという錯覚や誇大妄想、誤った判断が彼を処刑に追いやった。

正恩氏一人が全てを考え、決定して動いているとは思えない。

 周囲にアドバイスする人はいるだろうが、そこに頼らず、ほとんどは本人の戦略的思考、権力に対する信念や動物的感覚からくるものだろう。本人に何の中身もなくて優秀な側近に恵まれた結果だとは思わない。どういう側近がいたとしても、正恩氏本人の判断や選択はそんなに変わらなかったと思う。

そのくらいであれば、中国と首脳会談をしてもいいのでは。

 首脳会談をするか否かは中国が決めるのではなく正恩氏が決めることだ。習近平国家主席がいくら正恩氏に首脳会談をやろうと言っても断っている。自分たちが核武装しても文句を言わない、核保有国として認めるなら応じると前提条件を付けているためだ。その条件を中国が受け入れられないため首脳会談を開けずにいるのだ。そのくらい正恩氏は腹が据わっている人間だ。

 正恩氏の場合、父の金正日総書記とは違って中国との関係が破綻したとしても核武装をする覚悟だ。本気で中国が北に制裁を科してこないと確信しているからだ。北の体制が崩壊して数百万人の難民がなだれ込むことよりも、たとえ気に入らなかったとしても核武装を黙認して北が体制を維持してくれた方が中国の国益にかなうと思っている。

(聞き手=ソウル・上田勇実)