トランプ氏と中国、「関与」から「競争」の時代に

2017激動の世界を読む(14)

米ジョージ・メイソン大学教授 コリン・デュエック氏(下)

トランプ次期米大統領は、台湾の蔡英文総統と異例の電話会談を行い、「一つの中国」原則にも縛られない姿勢を示した。トランプ氏の対中国政策をどう見る。

コリン・デュエック 

 トランプ氏は基本的に、有用性を見いだせない既存の規範や慣例をほとんど必要としない。極めて型破りであり、外交界の人間はこれに慣れていない。既存の政策に対し「なぜこれを維持するのか分からない」とはっきり言うのがトランプ氏だ。

 トランプ氏が大統領選で訴えた中国に関する主張も極めて異例だった。共和党の中国に対する不満は、南シナ海での好戦的行動など戦略的、軍事的な議論が中心だが、トランプ氏の一番の反対理由は経済だ。中国は多くの米国人の職を奪っていると。

 このため、トランプ氏は過去の政権より通商・経済関係で中国への要求を強めるだろう。これは必ずしも全面的な貿易戦争に発展するとは限らない。むしろ、中国に対する関税引き上げの脅しが中国の譲歩を引き出し、米中は引き続き経済的な相互依存関係を維持する可能性が高い、と私は見ている。

米国はニクソン政権以来、「建設的関与」を対中政策の基本としてきた。だが、中国を平和的で協力的な国家へと導くどころか、強大なライバルを生み出してしまったのでは。

 米国の対中政策は関与を過度に強調し、中国が長期的な競争相手であることを軽視してきた。米国は戦略的にも経済的にもより競争的な視点で中国を考えなければならない。

 トランプ氏の視点は主に経済であるものの、中国は競争相手だというメンタリティーを持ち込んだ。これは米国の対中政策に大きな変化をもたらすだろう。

 今後の課題は、中国を深刻な平時の競争相手と扱う総合戦略を構築することだ。武力衝突は望んでいないが、米国はもっと強い姿勢で中国を押し返し、日本や韓国など同盟国を支援し、この地域への外交的、軍事的コミットメントを再建しなければならない。新政権にはその必要性を理解する人々が加わるだろう。

トランプ氏はアジアと欧州の同盟国とどう向き合うか。

 日米関係は非常に建設的なものになるだろう。安倍晋三首相は日本の防衛体制強化に積極的であり、トランプ氏と極めて良好な関係を築くと思う。トランプ氏が米国は太平洋地域で指導的役割を果たすべきだと信じていることは明らかだ。日米にとって極めてダイナミックな時代になる可能性がある。

 欧州については、英国やポーランド、エストニアなどを除き、同盟国が国防に十分な支出をしていないことに、トランプ氏は不満を示している。オバマ大統領やゲーツ元国防長官も不満を表明したが、トランプ氏はもっと露骨な表現で、多くの米国人が抱く不満を代弁している。

 トランプ氏の露骨な不満が、欧州同盟国の負担拡大、国防費増額を促し、北大西洋条約機構(NATO)は今後4年間、生産的な同盟であり続けるという好ましい結果をもたらす可能性は十分ある。

(聞き手=ワシントン・早川俊行)

=終わり=