米中間選挙左右する両党の内部対立

アメリカン・エンタープライズ研究所客員研究員 加瀬 みき

歳出法案めぐり民主混乱
トランプ支持か否かで共和分裂

アメリカン・エンタープライズ研究所客員研究員 加瀬 みき

 アメリカは政治も社会も分断が深まり、民主、共和両党間の確執は限度を知らないかのようであるが、より深刻なのは両党内の分断かもしれない。

 民主党をみれば、バイデン大統領の支持率が低下の一途をたどっている。新型コロナ感染の再拡大、アフガニスタンからの撤退時の混乱、インフレ懸念、特にガソリン代や日常品の価格の上昇がその原因として挙げられるが、より大きな要因は、面白くはないが経験豊かで迅速に政策を施行できるというバイデン・ブランドに傷がついたことである。

インフラ法案が人質に

 バイデン大統領の目玉政策である1・2兆㌦のインフラ投資法案は議会で超党派の支持を得て採択され、両党議員出席の下、大統領が署名し成立した。これによりボロボロな鉄道や道路網、橋などが修復され、ブロードバンド網へのアクセスが拡大する。アメリカ国民の生活や経済状況の向上、中国との競争にも欠かせない長年両党が求めてきた政策である。

 しかし、8月には共和党議員19人を含め3分の2の議員の賛同を得て上院で可決されていたにもかかわらず、下院を通過するまでに3カ月もかかり、ビルド・バック・ベター歳出法案がいまだ採択されていないのは、民主党内の急進派対穏健派の衝突が原因である。

 教育補助や貧困者への支援、有給家族休暇制度制定などの社会福祉や温暖化対策の実施こそが長年の夢であった急進派は、そのために巨額のビルド・バック・ベター歳出法案採択の目途(めど)が立つまで、上院で可決されたインフラ投資法案の票決を遅らせるという、いわば人質作戦をとった。

 下院の議席は民主党221、共和党213であり、共和党議員が全員反対した場合、民主党内から「造反者」が5人出れば、法案は採択されない。その中、なるべく多くの分野に最大限の予算をつけたい急進派と、項目数も金額も絞りたい穏健派の駆け引きが続いた。上院では1人の民主党議員の反対でも法案を殺すことになるが、下院の案に上院の穏健派議員の賛同を得る目途がなかなかつかなかった。下院で採択されるまでにビルド・バック・ベター歳出法案は当初の3・5兆㌦から1・75兆㌦まで大幅に削減されたが、インフラ投資法案には急進派6人が反対し、13人の共和党議員の賛同なくしては成立しなかった。

 民主党内の混乱や分裂でバイデン大統領の評判も落ちた。同氏の根気よい交渉力には定評がある。しかし、政治指導者には時に戦士の強引さも必要であり、アメリカ人は特に強さを求める。何カ月も党をまとめられない姿に「弱い」「公約を実現できない」というイメージが定着してしまった。

 一方、共和党はトランプ前大統領をめぐって分裂が続く。何よりも先の大統領選挙の結果が争点である。熱狂的なトランプ支持者は「選挙は盗まれた」と先の選挙で負けたのは不正のためというトランプ前大統領の言葉を信じている。選挙結果は正しかったと信じる議員は、トランプ氏の姿勢を批判すればトランプ氏の報復を招き、共和党支持者に見捨てられるため、予備選ではトランプ派候補が支持を集めやすい。しかし無党派層の票を得、本戦で勝利するのは難しい。

 バイデン氏の大統領承認を阻止しようとした1月6日の議事堂乱入へのトランプ氏の責任を問う弾劾裁判では、下院で共和党議員10人が賛同した。その内下院の指導層の一員であったチェイニー氏は指導部を追われ、2人は地元の党有権者から脅迫を受ける等を理由に、来年の中間選挙への再出馬を断念した。

アメリカの国会議事堂

 インフラ法案に賛同した共和党議員はトランプ氏に「名ばかりの共和党員」と揶揄(やゆ)され、トランプ支持者たちから死を望むような脅迫まで受けている。

 下院では今共和党議員同士の罵倒や「おまえは共和党のゴミ、ジハードの仲間と仲良くしろ」といった誹謗(ひぼう)中傷ツイートが続き、指導層が頭を悩ませている。

無党派層獲得が焦点に

 両党ともにまるで自党を引き裂き、自滅を競っているかのようである。どちらが自党議員や支持者たちを上手(うま)くまとめ、有権者、特に無党派層の信頼を得られるか。それが中間選挙を大きく左右することになる。