辺野古移設、平和守るため抑止力維持を
沖縄戦の組織的戦闘が終結して76年となった「慰霊の日」の23日、最後の激戦地となった沖縄県糸満市の平和祈念公園で「沖縄全戦没者追悼式」が行われた。平和を守る決意を新たにするとともに、そのために抑止力の維持や向上がいかに重要かを改めて考えたい。
沖縄県知事は移設反対
沖縄県の玉城デニー知事は平和宣言で、来年の本土復帰50年という節目を迎えるに当たり、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設計画について日米両政府に向け「(名護市)辺野古が唯一の解決策という考えにとらわれることなく、目に見える形で過重な基地負担の解消を図っていただきたい」と訴え、県を含めた協議の場を改めて要望した。
日米両政府が1996年4月に普天間飛行場の全面返還で合意してから25年が過ぎた。辺野古沖の埋め立て海域の軟弱地盤改良のため、返還時期は2030年代以降となる。しかし、国が申請した改良工事に関する設計変更に県は応じない方針だ。
玉城氏は「辺野古に新基地を造らせない」としている。故翁長雄志前知事と同様、移設阻止のために国との法廷闘争を展開してきた。だが、日米両政府は市街地にある普天間周辺の危険性除去や米軍の抑止力維持の観点から「辺野古移設が唯一の選択肢」との立場を堅持している。
普天間飛行場は住宅密集地に囲まれ、小学校や中学校にも隣接。「世界一危険な飛行場」と呼ばれる。04年8月には、隣接する沖縄国際大構内に米軍のヘリコプターが墜落する事故も発生した。周辺住民を巻き込むような大事故が起きれば、日米安保体制にも大打撃を与えよう。一日も早い返還が求められる。
一方、沖縄は朝鮮半島や中国をにらむ戦略的要衝であり、在沖米軍の存在は日本や東アジア地域にとって死活的重要性を持つ。特に中国は、沖縄の島である尖閣諸島の領有権を一方的に主張し、中国海警船が尖閣沖で領海侵入を繰り返している。今年2月には海警船の武器使用について明記した海警法が施行されるなど、尖閣奪取を虎視眈々と狙っている。こうした状況下で、在沖米軍の抑止力の維持や向上を怠ることはできない。
沖縄戦をめぐっては、本土決戦を先延ばしするために沖縄が「捨て石」にされたと言われることが少なくない。しかし実際は、日本側死者約18万8000人のうち県外出身の日本兵約6万6000人が戦死している。日本は沖縄を見捨てたのではなく、国を挙げて守ろうとしたのである。
歴史が正しく伝えられないまま、沖縄県民の被害感情が高まれば、本土と沖縄の分断につながり、日本の安全保障政策にも悪影響を及ぼしかねない。
丁寧に利点の説明を
もちろん、抑止力を損なわない範囲で沖縄の基地負担を軽減していく努力は必要である。危険性除去を目的とする普天間飛行場の辺野古移設も、その一環にほかならない。
辺野古移設が実現すれば、沖縄本島北部は経済が活性化し、普天間飛行場の跡地の再開発も経済振興に資する。こうした利点も政府は県や県民に丁寧に説明する必要がある。