国家的権威失いつつある中国

元統幕議長 杉山 蕃

軍事面でも包囲網強まる
日米豪印と欧州3ヵ国が連携

杉山 蕃

元統幕議長 杉山 蕃

 3月の米中外交トップ会談で、多分に威圧的態度を楊潔●(「竹かんむり」に「褫」のつくり)代表が国際メディアに見せつけて以来、所謂(いわゆる)中国包囲網の顕在化が目立つ状況となり、厳しい外交戦の現実はあるものの、国際的な平和・安定が何より重要との認識に立てば、いささか心配するこの頃である。今回は、中国の失いつつある権威といった観点から若干の所信を披露したい。

EUとの投資協定凍結

 最近、中国が失った最たるものは、中国・欧州連合(EU)包括的投資協定(CAI)が凍結されたことだという。本協定は「一帯一路」政策とも関連し、7年にわたり協議されてきたものである。昨年末、中国寄りといわれるメルケル独首相のEU理事会議長任期切れ、バイデン米大統領の厳しい対中姿勢の情勢から、中国が大幅に譲歩し「大筋合意」を達成、批准に向けた作業が実施されている時期にあった。

 ところがウイグル人権問題に関するEUの制裁に対し、中国が「倍返し」的対抗制裁をもって応じた。これに業を煮やしたEUは、大詰めに来ていたCAI作業の凍結に踏み切ったのである。凍結解除の条件は中国の制裁撤回という厳しいもので先は見えない。これによる中国の損失は計り知れないが、これにとどまらず、傍若無人とも言える外交姿勢に反攻の火の手が上がったと見れば、経済・軍事で勢いの止まらない中国の躓(つまず)きとも見え、今後の推移を注視していく必要がある。

 軍事面からも中国を意識した流れが米国を中心に広がりつつある。海軍戦闘艦艇数において米国を上回った中国の勢いは凄(すさ)まじい。しかし航空機となると中国側にこれといったトピックがない。自慢のステルス機J20(第5世代機)については、製造機数は進んでいるものの国産エンジン「WS15」の開発が予定通りではない情報が各所から聞こえる。肝心の空母搭載機についても苦戦しているようである。

 これらの状況を見て米空軍は、すでに第6世代機の開発に取り組んでおり、実証機の飛行は2年前から始まっていると公表している(空軍次官補)。そして、新しい構想として、従来の30年を区切りとした新鋭機の開発を半分の16年程度とし、技術的先進性で抜きん出た力を確立していこうとする「デジタルセンチュリー」構想が浮上してきている。ロシアからの導入技術を基盤に、長期運用を確立してきた中国軍事技術に対する強力な対抗処置である。果たしてどのような展開となるか未知数であるが、軍事技術的に包囲網を形成していく兆しと言えるだろう。

 そして6月11日、英国での先進7カ国首脳会議(G7サミット)においては、コロナ・パンデミック、気候変動対処等緊急の課題に加えて、人権抑圧、自由で開かれたインド太平洋、台湾海峡の平和と安定、東シナ海南シナ海の状況への深刻な懸念が共同宣言として発表された。まさに中国包囲網の一層の強化が発信されたと考えてよい。引き続き行われた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議においても「ルールに基づく国際秩序と同盟の安全保障分野に全体的挑戦をもたらしている」と非難され、国際的に窮地に立たされていると言ってよい。

 軍事面での行動も顕著である。日英2プラス2(2月3日)で英国は、虎の子と言える空母「クイーン・エリザベス」打撃群を派遣する旨公表し、開かれたインド太平洋構想に一層の協力姿勢を明らかにしている。仏軍は一昨年、空母「シャルル・ドゴール」を極東に派遣、海自との共同訓練を行っているが、本年も陸海軍を極東に派遣、日米仏豪4カ国による共同訓練を行っている。さらに従来、縁遠かった独軍も本年の艦艇派遣を決め、初の日独共同訓練が計画中であるという。中国包囲網の中核たる日米豪印(クアッド)に加えて、欧州3カ国の関与は、国際的に大きな圧力であることは当然である。

国際協調姿勢取り戻せ

 この局面でしたたかな外交術を有する中国がどう出るか注視が必要である。中国側から見れば、伸長する軍事力、主要国が逃げられない貿易実績を背景に沈静化を図る方策を進めるであろうが、何よりも厄介なのは、盛り上がっているナショナリズム、国民感情という国内の問題であろう。来年に迫った北京冬季五輪は、中国として何としても成功させたい大転機である。ここ一番、五輪をトリガーに国際協調の姿勢を取り戻し、大国としての権威を大切にしてほしいものである。

(すぎやま・しげる)