米海兵隊が新方針、対艦ミサイルで海軍を支援
中国の「接近拒否」戦略に対抗
米軍の展開を阻む中国の「接近阻止・領域拒否(A2AD)」戦略に対応するため、米海兵隊は新たな役割を果たす方針だ。テロ対策に重点を置いていたこれまでの体制を見直し、長射程の対艦ミサイルや無人システムの導入を図り海軍の作戦を最前線で支援する。在沖海兵隊の役割に変化をもたらす可能性があるほか、米軍全体の対中戦略にも影響を与える革新的な取り組みとして注目される。
在沖部隊の役割に変化も
「現在の海兵隊は大国間の競争に最適化されていない」。海兵隊のバーガー総司令官は、3日に米シンクタンク、ヘリテージ財団で行った講演で、国防総省が昨年発表した国防戦略で「戦略的競合国」と位置付けた中国に照準を合わせ、体制の見直しを急ぐ考えを示した。
バーガー氏は、7月の就任直後に今後の改革の方向性を示す「海兵隊計画方針」を発表。精密ミサイルや機雷などの兵器による脅威が高まる中、第2次大戦中の硫黄島の戦いに代表される大規模な上陸作戦は、現実的ではないとして新たな構想の立案を進めている。
米海軍の優位性が脅かされる中、バーガー氏は講演で海兵隊が海軍の作戦を支援する必要性を強調。艦上や地上から対艦ミサイル攻撃を行うなどして海軍の火力を増強させる「拡張された弾倉」としての役割を果たすとした。
バーガー氏は、計画方針の中で、「もはやわれわれは戦場に輸送されるだけの受け身の存在ではない」と指摘し、より長射程の精密ミサイルの導入が必要だとした。特に目を引くのは、これまで中距離核戦力(INF)全廃条約で禁止されていた範囲(500~5500㌔)に含まれる350カイリ(約650㌔)以上の地上発射型ミサイルの配備を主張していることだ。
それに加え、厳しいA2AD環境の中でも、その最前線で作戦を遂行できる部隊を目指す考えだ。バーガー氏は講演で、「われわれは敵の監視・ミサイル網の圏内にとどまる必要がある。同盟・友好国を安心させるためにもそこで戦い続けなければならない」と強調した。
そのための方策の一つが、戦力の「分散化」だ。これにより、ターゲットにされるリスクを軽減させつつ、敵を撹乱(かくらん)させることを図る。バーガー氏は、今後も強襲揚陸艦など大型の艦船は必要だとしながらも、商業船を含む安価で小型の艦船を数多く調達することを優先する考えを示した。
また無人システムを採用するなど、近代化の取り組みも加速させる。バーガー氏は、これにより人的な損害のリスクを下げるだけでなく、「人間と無人機がチームを組むことでより大きな力を発揮できる」と指摘。明確な目標を掲げるなどしてトップダウンで推進する考えを示した。
改革を推進する目的は、中国の南シナ海や台湾、尖閣諸島への軍事行動を抑止することにある。バーガー氏は「ゲームプランの核心は、敵にコストを課すということだ」と強調。中国海軍などに壊滅的な打撃を与える能力があることを示すことで、軍事行動を思いとどまらせる狙いだ。
海軍大学のジェームズ・ホルムズ教授は7日に米誌「ナショナル・インタレスト」(電子版)で「人民解放軍の接近拒否戦略を黙って受け入れる代わりに、(沖縄、台湾、フィリピンを結ぶ)第1列島線に沿って強固な守りを敷くものだ」と評価。「戦場の奥深くにとどまることで、中国を軍事、政治的に困難な立場に追いやるだろう」との見方を示した。
バーガー氏は海兵隊の新方針について、すでに「80~85%のイメージができている」と説明。今後、数カ月で完成させた上で、2022会計年度以降の予算に本格的に反映させる意向だ。
対中抑止に向けたバーガー氏の大胆な改革案は、他の陸海空軍の取り組みも触発する可能性がある。今後、米軍の対中戦略がどう具体化していくか注目される。
(ワシントン 山崎洋介)






