注目の米民主党新人女性4議員

アメリカンエンタープライズ研究所客員研究員 加瀬 みき

左寄り政策で党内分裂
トランプ大統領再選に貢献

加瀬 みき

アメリカンエンタープライズ研究所客員研究員 加瀬 みき

 米ノースカロライナ州で開催されたトランプ大統領の再選決起集会で支持者たちが「彼女を追い返せ」と叫び続けた。憎しみに満ち溢(あふ)れた叫びの対象はイルハン・オマール下院議員(民主党)。昨年の中間選挙で選出された初のソマリア系女性議員で初のムスリム議員2人のうちの1人である。

 同議員とアレクサンドリア・オカシオコルテス、アヤンナ・プレスリー、ラシダ・タライブの新人女性下院議員は「スクワッド」と総称され、トランプ大統領の再選に向けた攻撃材料となっている。戦いは大統領のツイートに始まった。「どうしようもなく悲惨な、世界中で一番汚職に満ち、無能な政府を持つ国から来たプログレッシブな民主党女性議員たち」は世界最高で最強の国アメリカがいかに運営されるべきかに関わるのではなく、なぜぼろぼろで犯罪に満ちた「自分の国に帰らないのか」。

全員がマイノリティー

 4人の女性議員はいずれも非白人のマイノリティーである。AOCと称されるようになっているオカシオコルテスの母はプエルトリコ出身、父もプエルトリコ系、プレスリーは黒人、タライブはパレスチナ系移民の子供でムスリム。トランプ大統領が国に帰れといっても、4人とももちろんアメリカ国籍でオマール以外はアメリカ生まれである。

 「国に帰れ」は使い古された人種差別を煽(あお)る言い回しである。トランプ大統領のこの発言に民主党ばかりでなく、さすがに共和党内からも批判の声が上がった。しかし大統領はそれを取り下げるどころか、「彼女たちはアメリカを愛することはできない」とまで述べた。

 民主党は前大統領予備選で最後までヒラリー・クリントンに迫ったバーニー・サンダースに代表されるようなプログレッシブと呼ばれる左派が台頭している。ネットメディアを巧妙に活用するスクワッド4人は、その中でも絶大な影響力を持つようになっている。中心的存在であるAOCは29歳の最年少議員。就任早々、今、若者の間で非常に関心の高い環境問題を前面に打ち出したグリーン・ニューディールを提案し、彼女の人気ゆえにベテラン議員たちの賛同も得ている。

 メキシコとの国境を渡り入国する移民や難民の収容施設の衛生管理の悪さ、狭い空間に大勢が収容され食事も十分に与えられない環境を激しく非難、「まるで強制収容所」との発言は一部で物議を醸しだした。一方、オマールはアメリカのイスラエル支持は全て金が理由と発言し、反ユダヤ主義と非難されている。

 世論調査によれば7割近い人がトランプ大統領のツイートを不快と感じており、スクワッドへの人種差別的発言は大統領が支持を失う理由になりそうである。しかし、共和党支持者の57%は、あまり外国人を受け入れるとアメリカのアイデンティティーを失うと案じている。約半年前に比べ13%もその割合が増えている。さらに大統領選の行方を決めるといわれる中西部では移民問題に非常に関心が深い。

 トランプ大統領は熱狂的な支持者たちの不安や怒りを煽り、そもそもはオバマ支持者であったが前回の選挙ではトランプ候補に投票した浮動票確保に確実な効果があると思われる手段を取っていることになる。

党指導層も抑えられず

 スクワッドは移民収容所の環境を大きく改善することを予算案への賛同の条件としたり、個人払い保険を廃止し国民皆保険の制定、非合法移民の立場の合法化、非合法移民への国民保険提供など従来の民主党の方針よりはるかに左寄りの政策を打ち出し、穏健派と対立し、党内を分裂させる厄介な存在となっている。

 ペロシ下院議長など指導層はどうにかプログレッシブ一派を抑えようとしてきたが、トランプ大統領の敵となったことで、今やスクワッドは民主党の顔となり、彼女らを党は擁護せざるを得なくなっている。民主党内がまとまらず、穏健派とプログレッシブが対立し、イメージが左傾化すればするほど、民主党が支持を増やすことは難しくなる。トランプ大統領の思うままにかき回される民主党は今のところ意図せずトランプ大統領の再選に貢献している。(敬称略)

(かせ・みき)