日本政界・沖縄に浸透図る中国 米シンクタンクリポート
中国は日本に対して考え方や信念、行動に影響を与える「政治戦」を仕掛け、さまざまな手段を通じて政界や沖縄への浸透を試みている――。米ワシントンのシンクタンク「グローバル台湾研究センター」のラッセル・シャオ主任はこのほど、中国のこうした対日工作の実態についてのリポートを発表した。(ワシントン・山崎洋介)
琉球王朝子孫を招待
「歴史的つながり探る」会議
米国防総省の1月の報告書によると、中国は米国や台湾のほか、日本にも政治工作を実施している。しかし、中国への警戒感の高まりから近年、米国や台湾における中国の工作活動については政府機関やシンクタンクなどで実態解明が進められているが、日本については不明な部分が多い。今回のリポートについてシャオ氏は「予備的調査」としているが、日本における中国の影響工作について焦点を当てている点で意義深いものだ。
シャオ氏によると、中国は特に、日米同盟において戦略的に重要な沖縄への工作を強めている。それに伴い、沖縄における米軍基地への反対運動や日本政府への反発が高まっている。
2013年、尖閣諸島をめぐり日中で緊張が高まった頃から、政府高官や政府系メディアを通じても沖縄への日本帰属に疑問を投げ掛けるプロパガンダ作戦を実施。少なくとも1人の中国高官が、「琉球諸島は北京に属している」と主張した。
この取り組みの一環として、中国は、琉球王朝の子孫を積極的に招待している。昨年3月には、中国福建省の拓福文教基金会が主催するツアーに、最後の琉球王の曽孫に当たる尚勇氏が22人の訪中団を引き連れて参加。そこで同基金は、「沖縄と中国の歴史的つながりを探る」ための会議を開催した。
このほか、経済的な関与も強めている。中国の投資家は、自然資源が豊富で米軍の施設が多い沖縄北部へ資金を集中。中国と沖縄の都市との間で姉妹都市の締結や中国からの観光客も増えている。
中国はまた、日本の政策決定に影響を及ぼすため、日本の政界への浸透に力を入れてきた。シャオ氏は、思想的もしくは経済、政治的な事情から中国の影響を受けやすいターゲットとして、かつては自民党の田中・竹下派だったが、今では創価学会が支持母体の公明党や自民党内のハト派、小沢一郎前自由党代表のグループを挙げている。
中国は日本の官民に多方面から働き掛けるため、さまざまな組織を用いている。このうち中国共産党中央統一戦線工作部の傘下にある中国平和統一促進会は、交流の場を提供しつつ、影響を与えようとしている。故李先念元国家主席の娘の李小林氏が会長を務める中国人民対外友好協会は、「広報文化外交」の推進を掲げながら、エリート層の取り込みを図っているともみられている。
学問の自由の侵害やスパイ活動の懸念がある中国の語学教育機関「孔子学院」は日本に15あり、他のアジア太平洋地域の諸国と比べて高い水準にある。
中国による対日工作の効果について、シャオ氏は「少なくとも表面上は深刻ではない」との見方を示している。実際、昨年10月に言論NPOが発表した調査で日本人の86・3%が中国を「良くない印象」か「どちらかといえば良くない印象」と回答したとしていることからもそれがうかがえる。それでも同氏は「中国は依然として、日本の政府や国民へ、さまざまな手法やチャンネルを通し影響を及ぼすことに熱心だ」と強調する。今後も中国による多様な工作活動について監視をしつつ、実態を明らかにしていく必要がある。






