米国の国連人権理事会復帰が必要だ
“人権”理事会の立て直しへ
「国連人権理事会は人権侵害者の防壁だ」として米国が理事会を離脱してから1年。先日、中国の人権派知識人、滕彪(テンビャオ)氏の話を聞いたが、彼も「中国や人権落第国が頑張る理事会では、有益なことなどできっこない」とさじを投げていた。
人権は国連の最重要テーマの一つ。そのための中心機関が人権理事会で、全国連加盟国の人権状況を審査する。47理事国は国連総会で毎年約3分の1ずつ選ばれる(任期3年で2期連続可)。だが近年、新理事国選出のたび国際人権団体からブーイングが飛ぶ。人権が裸足(はだし)で逃げだす様な国が多いからだ。
世界の自由と人権の調査で定評のある国際NGO「フリーダムハウス」の19年版調査を物差しにすると、現理事国のうち15カ国(32%)は「自由のない国」である(全世界の比率は26%)。中でも最低ランクの理事国は、サウジアラビアと今年新加入のエリトリア、ソマリア。中国、キューバ、コンゴ民主共和国、バーレーンは最低の一つ上だ。
理事国はアフリカ13、アジア13など地域配分されているが、地域内無競争が多い。今年の新理事国は昨年の国連総会で選ばれたが、全地域完全無風新記録だった。理事会参加で人権意識に目覚め、国内状況を改善する国などまずない。
理事会で中国に声高に異を唱えた米国が離脱した後、「日本が対中国最前線に立たなければ」との声も出た。
だが、日本は自分にかかる火の粉を払うのに忙しい。テロ等準備罪、言論圧迫、歴史教科書、沖縄差別と基地、慰安婦…韓国や中国、日本国内の左派NGO、反政府運動家らが、日本をたたき続ける。
先月も、特別報告者のデービッド・ケイ氏が「日本のメディアは政府の圧力を受け、独立性に懸念」との報告書を提出した。日本の書店で今、“菅官房長官の天敵”の東京新聞女性記者の安倍批判本が幾つも並び、彼女をモデルにした映画も全国上映中なのだが。
先月は、米軍基地辺野古移設に反対する在ハワイ日系4世の活動家も、理事会の一般討論で「沖縄は苦しんでいる。調査団派遣を」と訴えた。
そんな一方で日本は今年、北朝鮮人権非難決議案の提出を取りやめた。拉致問題解決を目指す戦術転換だから、結果を見守りたい。だが理解不能なのが、ミャンマーで迫害され、75万人もの難民が出ているロヒンギャの問題への対応だ。一昨年12月の国連総会、昨年9月と今年3月の人権理事会で、ミャンマー非難の人権決議が圧倒的多数で採択されたが、日本は全部棄権した。
外交当局者は「日本も欧米式の厳しい対応をすれば、相手を完全に中国側に追いやるから」と言う。北風と太陽の寓話(ぐうわ)を持ち出したりもする。
だが腰がすわらない人権外交の日本は、太陽よりは温い南風だ。オーバーなど脱がせられない。米国は理事会の外側で真の人権擁護に努めると言う。米国自身、イスラエルに甘すぎ、国内問題もある。しかし米中覇権対決の中、中国の人権状況非難にも力を入れるだろう。そのパワーが重要だ。
「天安門事件は虐殺」という米国の非難への中国の反応を見ても、G20というより米中首脳会談の直前だったため、香港デモが抑圧されなかったと言われることからも、米国の力がわかる。
理事会改革が必要だろう。無競争選出ばかりではダメだ。
だが、中国人漫画家の孫向文氏も先日「中国黒幕」論を展開していたが、中国などに牛耳られた“人権”理事会になっては困る。組織立て直しのため、北風に対抗できる強力な太陽エネルギーが理事会内に必要だ。米国に復帰してほしい。
(元嘉悦大学教授)