米で閉鎖相次ぐ孔子学院

大学の自由な議論を抑圧

全米学識者協会政策ディレクター レイチェル・ピーターソン氏に聞く

 米大学で「孔子学院」の閉鎖が相次ぐ中、2017年の調査報告書で米大学にある孔子学院をすべて閉鎖するよう推奨した保守系非営利団体「全米学識者協会」のレイチェル・ピーターソン政策ディレクターに孔子学院の問題点や必要な対応策について聞いた。(聞き手=ワシントン・山崎洋介)

政府による監視強化が必要
中国政府監督下で事実歪曲

中国政府は孔子学院を通じて、どのように教育現場へ影響を及ぼしているか。

レイチェル・ピーターソン氏

 レイチェル・ピーターソン氏 教育政策の調査研究、大学における学問の自由を擁護する保守系団体「全米学識者協会」の政策ディレクター。2017年にニューヨーク州とニュージャージー州にある12の孔子学院について実態調査をし、中国の影響工作について警鐘を鳴らした約200ページの報告書『アメリカの高等教育における孔子学院とソフトパワー』を発表。多数の米媒体に寄稿。同協会は1987年設立、ジーン・カークパトリック元米国連大使らが顧問に名を連ねた。

 孔子学院は中国の政府機関「漢弁」の監督下にある。そこが、教師の選択や賃金の支払いだけでなく、教科書を無料で提供し、海外研修旅行を含めさまざまな形で資金提供を行っている。運営に必要なものは、中国政府からほとんどすべて与えられるのだ。これにより、中国政府は、学習内容について前例のないレベルの管理を行うことができる。その内容は人権侵害をしてきた中国の歴史を除外し、中国における人々の暮らしぶりについて一面的な見方のみを提示するなど、事実を歪曲(わいきょく)する場合が多い。

孔子学院は、天安門事件やチベット・ウイグル問題などの議論をタブー視するなど学問の自由を脅かすと指摘されている。

 孔子学院の教師たちは中国について自由に発言ができないように制約を課されている。孔子学院が設置されている大学の教授たちは、同学院関係者の機嫌を損ねないよう頻繁に圧力を受けている。その結果、大学内における自由で開かれた議論が抑圧されている。

連邦捜査局(FBI)のレイ長官は昨年2月の議会証言で、孔子学院がスパイを行っている可能性も指摘した。

 FBIは、これまで孔子学院を通じたスパイ活動について懸念を表明してきた。このほかにも、カナダ安全情報局アジア太平洋地区責任者のミシェル・ジュノーカツヤ氏やオーストラリア国家評価室の元トップ、ロス・バベッジ氏といった他国の情報機関関係者も同様の懸念を述べている。

これまで米国の大学は中国の影響工作に対して無警戒だったか。

 大学は無警戒に中国政府からひも付きの寄付を受け取ってきた。一時期、100以上の米国の大学が孔子学院を受け入れたことが何よりそれを証明している。今、大学で孔子学院との関係を断ち切る流れが始まっているが、外国からの不当な影響から身を守る取り組みがまだ必要だ。

昨年成立した国防権限法の影響で孔子学院の閉鎖が続いている。

 連邦政府は、中国政府の影響によって損なわれる可能性のある大学のプログラムに資金を供給しないことを確実にするための適切な措置を講じた。これは、米国の高等教育の健全性と安全性を守るために不可欠だ。同時に、孔子学院を閉鎖することを決定した大学を称賛したい。

孔子学院の問題に対処するために政府や議会がすべきことは。

 外国政府から大学への資金提供に対して、透明性を高める措置が必要なことは明らかだ。大学はこれまで、寄付や利益を得ることを自由に行ってきたが、外国政府との不適切な関係に抵抗できなかったことが証明されている。政府によるさらなる監視が求められる。