大学の「言論の自由」求め大統領令 トランプ氏が署名
トランプ米大統領は21日、大学が言論の自由を守らない場合、連邦政府からの補助金を削減する大統領令に署名した。大学内で言論の自由が抑圧されている現状に保守派の不満が高まっていることが背景にある。
保守派への不当な制限に焦点
トランプ氏はホワイトハウスで行われた署名式で、保守派の学生や活動家を前に「われわれは、異論を抑圧し、米国の若者が左翼イデオロギーに立ち向かうことを妨げる教授や大学運営者に明確なメッセージを送る」と主張。「大学が言論の自由を認めない場合、私たちは彼らにお金を与えない。非常に簡単なことだ」と強調した。
トランプ政権は、大学内で保守派の学生や講演者が不当な制限を受けてきたと訴えてきた。
例えば、2017年2月にカリフォルニア大学バークレー校で、保守系メディア「ブライトバート・ニュース」編集幹部だったマイロ・ヤノポロス氏の講演に反対するデモ隊が放火するなど暴徒化し、講演が中止となった。その後も同大では保守派論客による講演が中止に追い込まれる事態が続いた。
今年2月には、勧誘活動をしていた保守系団体の活動家が学内で左翼の活動家から罵声を浴び、殴られる事件が発生した。
署名式に参加したオハイオ州マイアミ大学の学生で人工妊娠中絶反対派のエレン・ウィットマンさんは、中絶で亡くなった胎児を表す木製の十字架の展示を企画。しかし、大学関係者から展示が引き起こす可能性のある「感情的なトラウマ」についての警告をキャンパスに掲示することを要求されたという。
また、ノースウエスト・ウィスコンシン工科大学の学生、ポリー・オルソンさんは「イエスはあなたを愛しています」などのメッセージとともに手作りのバレンタインデーカードを配っていたところ、大学職員から「学習環境を混乱させている」としてやめるように言われたと語った。
言論の自由に対する学内の厳しい環境は、学生への意識調査からも読み取れる。米シンクタンク、ブルッキングス研究所が全米1500人の学部生を対象に、世論調査を昨年9月に発表した。それによると、物議を醸している人物が学内で講演する場合、51%の学生が大声を出して発言を妨害することは容認できると回答。驚くべきことに、19%の学生は暴力を用いて発言者を沈黙させることも許容できるとした。
別の調査では、大学が言論・表現の自由に制限を課す「スピーチコード」も問題視されている。大学での言論の人権の擁護団体「教育における個人の権利財団」の調査では、調査対象となった大学466校のうち129校が、「不快な発言」を禁止するなどとして言論の自由を「明確かつ実質的に制限する」規則を少なくとも一つ設けている。また、約10%の大学が自由な言論をキャンパスの一角の「フリースピーチゾーン」に制限しているという。
トランプ政権は、大統領令の実施の詳細について数カ月以内にまとめる方針だが、教育関係者らからはすでに効果を疑問視する見方や政府の介入による混乱への懸念も広がっている。
一方で、大学内の深刻な現状に焦点を当てたことを評価する声もある。社会評論家のロジャー・キンボール氏は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙への寄稿で、「政府が米国の教育機関を腐敗させているポリティカル・コレクトネス(政治的正当性)と不寛容に取り組むのは遅過ぎたくらいだ」とし、言論の自由回復に向けた第一歩だとした。
(ワシントン 山崎洋介)