クオモ米NY州知事の醜聞


ロバート・D・エルドリッヂ

エルドリッヂ研究所代表、政治学博士
ロバート・D・エルドリッヂ

 アメリカの民主党に対して、昔から「無能な連中」「腐敗だらけの行政」「有権者を騙(だま)す」「強引な政治」などの批判がある。もちろん、その一部は、共和党系の支持者、メディアによる「党派的」なものだが、あいにく、今月に入ってそれらの批判がいかに事実であるかを象徴する大スキャンダルの真相が明らかになった。しかも、民主党のトップである大統領ジョー・バイデンが介入するほど、大事件へと発展してきた。

メディアとの協力強化

 それは、ニューヨーク州知事アンドルー・クオモが、長年、部下や外部の女性たちに対して、体を触るなど継続的なセクハラを行ってきたことだ。さらに、訴えた女性たちに対して、仕返しも繰り返し行っていた。州司法長官レティシア・ジェームズが3日に公表したことで明らかになった。

 クオモは、1982年に父親が立候補した知事選の対策本部長を務め、当選後は年収1ドルで顧問を務めた。優しい知事の父と違って、長男であるアンドルーは「強制する人」と言われていた。

 その後、クオモは39歳の時、ビル・クリントン政権の2期目の住宅都市開発省の長官を務め、民主党のプリンスとして注目された。2002年のニューヨーク州の知事選に出馬したが、失言のため途中で辞退せざるを得なかった。その4年後、選挙でニューヨーク州の司法長官に選ばれたが、10年秋の知事選に出馬し、当選した。

 現在は3期目だが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で再び注目されるようになった。それは、同州出身のドナルド・トランプ(前大統領)と喧嘩(けんか)し、積極的に市民に向けて、州政府の取り組みを定期的に記者会見で発表したためでもある。

 その注目度の向上に貢献したのは、反トランプの、民主党系のメディアの一つであるCNNだ。これまで本紙で、アメリカの主要なメディアは民主党寄りだ、と説明してきた。さらに、現在のアメリカのメディアと民主党は、昔の王国のように結婚を通じて、協力関係を一層確立し、また維持・強化してきた。民主党の幹部やメディアの職員、アナウンサーなどは、夫婦関係であったり、親子関係にあったりすることが多い。

 よく知られているが、クオモの弟はCNNのアナウンサーのクリス・クオモであり、パンデミックでは、兄である知事の業績に関して一貫してポジティブな報道を繰り返していた。

 しかし、今年に入って、知事は悪い数字や情報を隠蔽(いんぺい)したり、他の数字を水増ししたりして、より成功しているように見せようとした。ジャーナリズムを代表する機関として、CNNは徹底的に調査して、報道すべきだったが、不都合な情報はカバーしていない。

 さらに明らかになったことがある。クリスが、知事に対してさまざまな進言を行い、2月に司法長官による調査が開始されると発表された後の知事の記者会見での声明文を書いたのだ。つまり、アナウンサーでありながら、政治コンサルタントをしていた。

 調査でもう一つの事実が明らかになった。知事は新型コロナワクチンを、弟をはじめ、その段階で接種する権利がない身内の人々に、早い時期に特別な忖度(そんたく)をして車やドライバー付きで提供した。

 8月上旬の州司法長官の記者会見を受け、長年の盟友であったバイデンは、クオモは辞任すべきだと発言した。クオモは「イタリア系の俺は人に触り、キスする人種だ」と言い訳をし、ジョージ・ブッシュやバラク・オバマの両元大統領が一般国民をハグしている写真も公表してごまかそうとしていたが、10日になって辞意を表明した。

 言うまでもないが、セクハラは許し難いものであり、特に、権力にいる立場の人からであればなおさらだ。この一連の出来事を見て、民主党のもう一つの大きな課題が見えてきた。セクハラ被害者が出るまで、民主党は、数年前から病院の数を少なくし、老人ホームでの死者を急増させていたことなど、クオモの問題点をずっと無視していたことだ。

政策より性格を重要視

 つまり、ポリシー(政策)よりパーソナリティー(性格)を問題にする民主党は、結局、腐敗を許し、市民を騙している。来年の秋には、中間選挙があるが、有権者が厳しい判断を下すのではないかと筆者は見ている。(敬称略)