対化石燃料戦争 再生エネで中国依存も



《バイデンのアメリカ 先鋭化するリベラル路線(8)》

 バイデン米大統領は就任から1週間のうちに、気候変動対策に関する大統領令に矢継ぎ早に署名し、左派勢力から喝采を浴びた。
 「まるでわれわれがこの計画づくりに携わったかのようだ」

2017年1月、キーストーンXLパイプラインの建設を推進したトランプ前米大統領に抗議するデモ参加者(UPI)

2017年1月、キーストーンXLパイプラインの建設を推進したトランプ前米大統領に抗議するデモ参加者(UPI)

 民主党のオカシオコルテス下院議員は、バイデン氏の政策に急進左派の要望が色濃く反映されたことをこう歓迎した。「民主社会主義者」を自称するサンダース上院議員は「バイデン氏は気候変動危機に対処するために素早く動いた。次は議会が化石燃料からの移行に向け積極的に動くべきだ」と息巻いた。

 大統領令は、カナダから米中西部まで原油を運ぶ「キーストーンXLパイプライン」の建設認可を取り消すほか、連邦政府の所有地での石油やガスの新規貸し出しを停止し、既存の契約についても見直しをする。また、化石燃料への補助金を廃止する一方、2030年までに米国の洋上風力発電容量を2倍にすることなど、化石燃料から再生エネルギーへ移行する意向を鮮明に打ち出した。

 バイデン氏が副大統領を務めたオバマ元政権は、石炭火力への規制を大幅に強化したことで、「対石炭戦争」を仕掛けたとの反発を受けた。しかし、今ではその対象が広がり、共和党議員からは「対化石燃料戦争」だとの声も上がる。

 米国は石油とガスへの規制緩和を推進したトランプ前政権の時代にエネルギーの自立が実現した。しかし、バイデン政権が化石燃料に敵意を示す左派の影響の下、石油やガスの国内生産を急激に減少させれば、外国からの輸入に頼らざるを得なくなり、ロシアやイラン、ベネズエラなど石油・ガス収入を背景とした強権国家に対する制裁圧力を弱める恐れがある。

 一方、中国はグリーンエネルギーへの移行を約束しつつも、低コストだが二酸化炭素を多く排出する石炭火力に巨額の資金を投資してきた。米シンクタンク、グローバル・エナジー・モニターによると、中国は昨年、38・4ギガワットの新しい石炭火力発電所を稼働させたが、これは他国で建設された石炭火力の3倍以上の規模だという。

 米国での化石燃料生産の減少により、エネルギーコストが大幅に上昇した場合、特に鉄鋼などエネルギー集約型産業で米企業が中国企業との競争で不利になることが予想される。

 保守系シンクタンク、ヘリテージ財団のスティーブン・ムーア特別客員研究員は最近発表した論考で、バイデン氏の環境政策について、「米国経済と雇用にとっては良くないが、サウジアラビアの王族、ロシアのプーチン大統領、中国の共産主義者にとって素晴らしいニュースだ」と批判した。

 再生可能エネルギーを推進する上での大きな課題は、風力タービン、ソーラーパネル、電気自動車などの製造に不可欠なレアアース(希土類)の多くを中国に依存していることだ。米国が輸入したレアアースのうち、約80%を中国が占める。

 バイデン氏は先月24日、レアアースの供給網強化を図るための大統領令に署名したが、「根本的な変化があったとしても、自給自足になるまでに少なくとも10年はかかる」(ブルームバーグ通信)とされ、短期間での大きな改善は見込めない。再生エネルギーへの移行を急げば、レアアースの中国への依存を強める可能性がある。

 バイデン氏は地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に復帰し、「再び世界を主導する」と意気込むが、過度に野心的な取り組みを進めれば、経済、雇用、安全保障面での悪影響は避けられない。

(ワシントン・山崎洋介)