遠のく人種間の調和、逆差別生む「結果の平等」



《バイデンのアメリカ 先鋭化するリベラル路線(7)》

 米ミネソタ州で昨年5月に起きた白人警官による黒人暴行死事件をきっかけに、全米各地で「黒人の命は大切(BLM)」運動による暴力を伴う激しい抗議活動が巻き起こった。これにより、昨年11月の大統領選は人種問題が主要争点の一つになった。

2020年6月6日、米ワシントン市内で開かれた人種差別抗議集会でこぶしを挙げる黒人参加者(UPI)

2020年6月6日、米ワシントン市内で開かれた人種差別抗議集会でこぶしを挙げる黒人参加者(UPI)

 BLM運動を主導する極左勢力からの強い圧力もあり、バイデン大統領は選挙公約に掲げた「システム化された人種差別の根絶」を最優先課題の一つに位置付けている。就任初日に出した「人種的平等の促進」を指示する大統領令を皮切りに、人種差別是正を目的とした行政命令を次々に出している。

 これらの行政命令に目を通していくと、気が付くことがある。「平等」という表現がこれまで伝統的に用いられてきた「イコーリティー(equality)」ではなく、馴染(なじ)みの薄い「イクイティー(equity)」という単語に置き換えられていることだ。「人種的平等の促進」を指示する大統領令では、後者が21回も使われる一方、前者は一つもなかった。

 同じ平等の概念でも、イコーリティーとイクイティーはどう違うのか。おそらく米国民の多くがその違いを認識していないと思われるが、カマラ・ハリス副大統領によると、「両者には大きな違いがある」というのだ。

 結論から言えば、イコーリティーは「機会の平等」を指すのに対し、イクイティーは「結果の平等」を意味する。すべての人に等しく機会が与えられることが米国の伝統的な平等の概念だったはずだが、バイデン政権はすべての人種に等しい結果をもたらすためであれば、特定人種を優遇するなど機会を差別しても構わない、そう捉えているのである。

 こうしたバイデン政権の姿勢を象徴したのが、名門エール大に対する訴訟の取り下げだ。米国の大学は多様な学生を確保するため、入学者選抜で黒人など人種的少数派を優遇する「アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)」を取り入れているが、トランプ前政権はこれをアジア系や白人への逆差別だと訴えていた。

 アジア系の生徒は学業で極めて優秀な成績を収めているが、これは本人の努力によって成功の道が開かれることを示す強力な証拠だ。だが、リベラル勢力にとっては、人種的少数派は差別により成功できない運命にあるという主張が覆される「不都合な真実」に他ならない。このため、リベラル勢力の間では、アジア系を白人と同じ差別の加害者側に位置付けようとする動きすらある。

 「人種によるえこひいきの実践は社会的分断と憤りを助長する」。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が社説でこう批判したように、結果の平等を実現するために特定人種を優遇することは、逆に人種間の調和を遠のかせる恐れがある。

 だが、バイデン政権にとっては、むしろそれが政治的に好都合なのだろう。国民を人種、民族、性別、性的指向などのアイデンティティーでグループ分けし、その対立を煽(あお)って政治エネルギーに変えるのが「アイデンティティー・ポリティクス」と呼ばれる民主党・リベラル勢力の戦略だからだ。

 バイデン政権の動きからは、人種差別是正を名目に結果の平等という社会主義的な政策を強力に推し進めようとする思惑も垣間見える。人種問題の「政治利用」が一段と露骨になっている。

(編集委員・早川俊行)