教員組合への迎合、学校再開で「科学軽視」



《バイデンのアメリカ 先鋭化するリベラル路線(6)》

 バイデン米大統領が昨年の大統領選で幾度となく繰り返してきた言葉が、「科学者の意見を聞く」という約束だった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて閉鎖された学校の対面授業再開をめぐり、早くもその「科学尊重」の姿勢に疑問符が付いている。

対面授業が中止となり、米メリーランド州の自宅でオンライン授業を受ける生徒=2020年4月30日(UPI)

対面授業が中止となり、米メリーランド州の自宅でオンライン授業を受ける生徒=2020年4月30日(UPI)

 米疾病対策センター(CDC)のロシェル・ワレンスキー所長は3日の会見で、「学校を安全に再開できるというデータが増えている」と指摘。教員組合の一部が学校再開の条件とした教職員への予防接種についても「必要ではない」と明言した。

 マスクや社会的距離などの対策を取れば学校を再開できるというのは、科学者のコンセンサスとなっている。しかし、ホワイトハウスのサキ報道官はその翌日、ワレンスキー氏の発言は「個人的な見解」だと軽視した。ハリス副大統領も、17日に出演したNBCの番組で、教師が予防接種なしで安全に授業を再開できるかについて繰り返し回答を避けた。

 バイデン氏は、就任後100日間で公立学校の大半を再開することを目標に掲げた。にもかかわらず、学校再開に抵抗し地元当局と対立する教員組合に向き合うことには及び腰だ。

 背景には、支持基盤である教員組合が民主党に対する影響力を強めていることがある。教員組合は2004年に430万㌦の政治献金を行ったが、20年には4370万㌦と約10倍に増加し、その98%が民主党に寄付された。

 バイデン政権が積極的に学校再開を促さないのは、こうした教員組合に配慮する政治的動機からとみられ、ワシントン・エグザミナー紙は社説で「科学が教職員組合より後回しにされている」と批判した。

 学校再開を追跡している組織「ブルビオ」の推定によると、現在全国の31・7%の生徒が対面授業を受けられていない。ネット環境がないなどの理由でオンライン授業を受けられない生徒も数百万人いるとみられる。学習格差が拡大する恐れがあるほか、長引く閉鎖により精神衛生上の問題も懸念される。

 一方で、教職員組合の一部は、学校再開の条件として、教育と関係のない急進左派的な政治主張も掲げている。

 例えば、カリフォルニア州ロサンゼルスの教員組合は昨年7月、学校再開の要件をまとめた報告書で、警察予算の削減や「メディケア・フォー・オール(国民皆保険制度)」、富裕層への増税なども要求。サンダース上院議員ら急進左派の政策と見間違えるような主張を盛り込んだ。

 こうした教員組合に迎合するバイデン氏の姿勢は、保護者が子供の通う学校を選べるようにする「スクールチョイス(学校選択)」政策にも表れている。

 トランプ前政権は、学校間に競争原理を持ち込むことで教育の質を向上させる目的でスクールチョイスを推進した。実際に生徒の成績向上や自殺率の低下に貢献したとの研究結果もあり、世論調査会社ベック・リサーチが実施した最新の世論調査では、保護者の65%がスクールチョイスを支持した。

 一方で、既得権益を脅かされる教員組合や民主党左派は、公立学校の衰退を招くものであると強く批判してきた。バイデン氏は昨年7月、党内左派との融和を図るため、サンダース氏らとの政策合意に達したが、その中でチャータースクール(公設民営学校)の規制強化など、スクールチョイス政策を後退させる政策が盛り込まれた。

 国民からの幅広い支持を得てきた教育改革の動きが、岐路に立たされている。

(ワシントン・山崎洋介)