バイデンのアメリカ 忍び寄る「左翼文化革命」
伝統的価値観の破壊を狙う
バイデン米大統領が1月20日に就任してから1カ月余り。就任演説で国民の「結束」を訴える一方で、リベラル色の濃い政策を次々に打ち出している。バイデン氏の下で米国はどこに向かうのか、探った。(編集委員・早川俊行)
冷戦時代、米連邦捜査局(FBI)捜査官として、国内の共産主義勢力の動向をウオッチしたクレオン・スクーセン氏の著書に『裸の共産主義者』がある。共産主義に関する文献が少なかった時代にその脅威を世に知らしめ、ベストセラーになった。
出版から約60年が経過した今も、同書が版を重ね、多くの人に読まれ続けるのには理由がある。米国を乗っ取ろうとする共産主義勢力の計略を「共産主義者の45のゴール」として列挙した内容の多くが、米国で今、実際に起きていることと合致するからだ。
「45のゴール」には、以下のような内容がある。
ゴール15:政党の一方、または両方を乗っ取る
ゴール17:学校を支配する
ゴール20:報道機関に浸透する
ゴール26:同性愛や乱交を正常な行為だと示す
ゴール27:教会に浸透し聖書の権威を失墜させる
ゴール30:米国の建国者の名誉を傷つける
ゴール40:家族の価値を落とす
いずれも今の米国で進行しているものだが、ここから浮かび上がるのは、米国の共産主義勢力が目指していたのは労働者革命ではなかった、ということだ。既存の権威ある機関や組織に浸透し、米国の文化や伝統、価値観を根こそぎ変えてしまうことが彼らの革命戦略だったのである。
文化的側面から革命を起こそうとする共産主義勢力の策略を誰より理解していたのが、実はトランプ前大統領だった。トランプ氏は昨年7月、歴代大統領の顔が刻まれたサウスダコタ州ラシュモア山で行った演説で、「歴史を一掃し、英雄を侮辱し、価値観を消去し、子供たちを洗脳する容赦ない運動に直面している」と断じた上で、米国の転覆を試みる「左翼文化革命」は絶対に起こさせないと宣言した。国内の共産主義勢力に対する事実上の宣戦布告だった。
一方、バイデン氏はどうか。就任演説ではこう訴えた。
「政治的な過激主義、白人至上主義、国内のテロリズムが台頭している。これに立ち向かい、打ち負かさなければならない」
これは間違いなく1月6日に議会乱入事件を起こしたトランプ氏の支持者を念頭に置いた発言だ。米国を脅かす最も危険な勢力は、トランプ氏とその支持者だというのである。
議会乱入事件や白人至上主義の危険性を過小評価してはならない。だが、バイデン氏の演説からは、米社会に急速に浸透する社会主義・共産主義への警戒感は微塵(みじん)も感じられない。むしろそれを歓迎しているようにさえ聞こえるのだ。
実際、バイデン氏は就任初日の17件を皮切りに、前例のないペースで大統領令などを乱発し、「左翼文化革命」を後押しするような過激な政策を次々に打ち出している。
「バイデン氏の癒やしと結束の誓いは、文化戦争で極左勢力の要求にすべて応えることを意味するようだ」
保守系シンクタンク「倫理公共政策センター」のライアン・アンダーソン所長は、こう非難した。就任演説で国民の結束を訴えたバイデン氏の眼中にあるのは、極左勢力との結束だけだというのだ。
トランプ氏からバイデン氏に大統領が代わったことで、米国は「普通」の国に戻ったと言われることが多い。だが、本当にそうなのか。大統領のキャラクターだけを見ればそうかもしれないが、バイデン氏の下で米国は「異常」な勢いで左翼傾斜している。