変わらぬ米国の対中強硬姿勢
拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ・ギャルポ
日米豪印を中核に連携を
影響力増す在米インド人移民
米大統領選は11月3日、投票が実施され、メディアはバイデン・ハリス民主党コンビの当確を報道した。しかし現職共和党のトランプ大統領は今回の郵便投票などのプロセスと選挙そのものにも不正があったとして、開票のやり直しを求め、法廷で争う準備に入ったとの報道もある。今後、法廷闘争さらに下院での決選投票まで引きずられた場合、最終決着までさらに時間がかかるもようである。
トランプ大統領の逆転勝利の可能性もないわけではないが、英、仏、独に加え菅義偉首相もバイデン氏に電話で祝意を伝えるなどしている。まだ決まっているわけではないが、仮にバイデン候補が当選した場合の米中関係について愚見を述べたい。
対中批判が優勢な議会
トランプ大統領とペンス副大統領が、中国の覇権主義の野望に覚醒し、脅威と認識し、強硬な対抗姿勢で対峙(たいじ)したことは高く評価される。もちろん選挙の結果、トランプ政権が継続することになれば、大きな変化はないわけである。だがバイデン政権誕生の確率が高くなった以上、その政権の重要対外姿勢を予測することに損はないだろう。
日本ではバイデン氏の対中姿勢が軟化するのではと心配する保守派の方がいる。しかし私は民主党政権の対中政策はより計画的組織的に強化されると考えている。
チベット問題を大統領選で論じたのはバイデン候補であった。バイデン氏は「トランプ大統領は4年間1度もダライ・ラマ法王と会っていない」と批判し、自分は会うだけでなく中国政府に対して「ダライ・ラマ法王と意味ある対話」を実現するよう強く働き掛けると断言した。慌てたトランプ政権はじめ3年間空席だったチベット担当調整官(特使)に国務省次官補を任命し、ポンペオ国務長官はチベット亡命政府のロブサン・センゲ首相と会ってバイデン側の批判に対応した。
ナンシー・ペロシ下院議長を筆頭に、議会では人権問題、民族問題を背景に中国に批判的な議員が圧倒的に多い。情報機関だけでなく官僚、メディア、財界人にも中国の脅威を見抜き警戒心を強く抱いている人が、日本と比べられないほど多い。もちろん日本同様、中国を非友好的に感じている国民が大多数である。私が見聞している限りバイデン氏は川喜田次郎先生のKJ法的思考で問題対処していく人物。従って安易に北京政府に妥協することはないと思う。
日本が見過ごしている、もう一つの大事な問題はインドの存在である。バイデン政権が誕生すればインド系カマラ・ハリス氏が女性初、アジア系初の米国副大統領になる。正確には父はジャマイカ系で母はインド人移民である。勝利演説でも母親が彼女にとって大きな存在であることを強調していた。
アメリカ合衆国に現在約200万人のインド人移民がいる。約20年間で150%増加している。それも72%は今回、民主党を支持しただけでなく多額の献金もしている。他の移民に比べて教育レベルの高さが特徴である。2020年10月現在、インド人系州知事2人、下院議員5人、上院議員1人そして副大統領候補を輩出している。留学生は12万前後で中国と1位を争ってきている。
インドの潜在的可能性と今の世界情勢を捉えて地政学的重要性をいち早く正確に理解し、それを現実的に外交および防衛政策に導入したのは安倍晋三前首相であった。安倍前首相のビジョンから生まれた、日米豪印からなる戦略対話(クアッド)も、「自由で開かれたインド太平洋構想」もインド抜きでは前進する意味がないほど重要である。
安倍前首相とナレンドラ・モディ印首相は阿吽(あうん)の呼吸で通じ会える信頼関係と、揺るぎない価値観の共有に基づく両国を構築してきた。菅義偉首相は「有言実行」の精神で安倍前首相の日印関係を含む外交を受け継がれると信じたい。
印米関係の前進に期待
トランプ大統領はモディ首相とも極めて良好な関係を促進してきた。今後もハリス氏が接着剤となってバイデン政権下の印米関係は前進すると見られている。日印米豪が中核となって、さらに東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々とも連携して、アジアの地域を中心に自由、民主主義、法の支配に基づく国際秩序の維持と強化に寄与することを米国の次期政権に期待したい。