米大統領選結果はいかに決まるか
アメリカン・エンタープライズ研究所客員研究員 加瀬 みき
投票制約する事例が横行
期日前短縮や身分証明厳格化
長かった米大統領選挙戦がやっと終わろうとしている。しかし、投票日の翌朝までに新大統領が決まるか、何よりもいかに勝者が決まるかは誰も読み切れない。
10月末時点で民主党のバイデン候補が有利である。バイデン氏が有利なのは同氏が民主党の候補に正式に決まってから変わらず、またトランプ大統領との差も9ポイント前後で異例と言えるほど安定している。
アメリカ中、いや世界中が4年前を思い起こし、いつトランプ大統領が差を縮めるか、オクトーバー・サプライズがあるのか、そして大逆転勝利があるのかもしれないと見守ってきた。しかし、共和党の指導層内ではすでに悲壮感が広まっており、トランプ大統領自身、早くから獲得票数で負けた場合の準備をしてきたと見える。
選挙監視人が選挙妨害
今年は新型コロナ感染拡大の影響で郵便投票が増えることが予測されたが、これが民主党に有利と信じる大統領は、「もし負けたら潔く大統領の座を渡すか」と質問されても、「不正がなければ負けを認めるが、郵便投票には不正が多い」と負けを認めない意向を繰り返してきた。
選挙結果を左右するのはトランプ大統領の言葉だけではない。投票したい有権者が投票できるか、投じられた票がどこまで数えられるか、そしてすでに多数争われている訴訟がいくつ取り上げられ、どのような判決がでるかが大きく左右することになる。
投票したい有権者が投票できるかにはすでに不安がある。選挙では各党や候補者陣営が選挙監視人といわれる人々を任命するが、共和党の監視人が選挙妨害をすることが懸念されている。監視人の本来の任務は選挙運営職員が正しく職務を果たしているか、投票しているのが投票の権利がある人かなどを監視することである。投票者に直接接する権利はなく、問題があると思われる場合は、選挙管理委員会の責任者や党の弁護士などに連絡し、問題解決を図る。
しかし、共和党は監視人がさまざまな選挙妨害を行ってきた過去がある。例えば監視人に元警官や退役軍人を採用し、民主党支持者と思われる有権者を威圧する。銃携帯は投票所内では許されないが、屋外では禁止されていない。監視人が投票所の周りを囲み、マイノリティーが投票所に近寄り難くするという手法もある。また有権者登録にきた黒人に身分証明書が不適切と追い返すこともある。もちろんこれは不当である。
こうしたことから共和党は1982年から36年間も監視人派遣を禁じられていた。2018年から晴れて認められたが、すでにさまざまな手法でマイノリティーの投票行動を制約したことが報告されている。
トランプ大統領は機会あるごとに支持者たちに監視人になるよう声を掛け、さまざまな不正があると主張し、監視人に投票所でしっかり見張るよう檄(げき)を飛ばしている。
他にも共和党が州議会で多数を占める州の中には、銃所有許可証は身分証明になっても学生証はならない所もある。学生には民主党支持者が多いのが理由とみられている。郵便による期日前投票が例年より爆発的に増えることが予測されるが、郵便公社は受付期限までに用紙の回収作業が終わらない可能性があると述べてきた。にもかかわらず、受付期限の延長を認めない州もある。
接戦州の一つであるサウスカロライナ州では郵便投票がすでに開始されてから、今年は新型コロナのために免除されていた郵便投票用紙の証人サインを復活させた。ウィスコンシン州では期日前投票期間が短縮され、身分証明基準が厳しくなった。
国民が納得できぬ恐れ
このような投票を制約しようとするさまざまな手法や投票妨害の影響に加え、州によって法律が異なること、今年は新型コロナの影響で期日前投票が多いこと、そして州議会、州知事、州の司法当局でどちらの党が優勢かにより、いまだに投票をめぐるルールの変更や訴訟が起きていることも選挙結果に影響を与える重要な要因である。
投票日後早急に大多数の国民が納得する結果がでるのか。大きな不安がある。
(かせ・みき)